歯が抜けていき、入れ歯に頼る。老化と切っても切れない現象であり、要介護の可能性にも直結するのだ。
高橋歯科クリニックの高橋章院長が言う。
「自分の歯が20本以上ある人は、60歳で8割弱。それが70歳になると約5割に減り、80歳になると3割弱と言われています」
人間の歯は親知らずを除くと28本ある。これが60代から80代にかけて一気に減少するのだ。
東北大学大学院の歯学研究科・松山祐輔歯科医師グループが、全国24自治体の「要介護認定を受けていない高齢者」を追跡したデータ(17年)によると、自分の歯の本数が多い人ほど健康で長生きしているという結果が出ている。
そして同グループは、厚生労働省や日本歯科医師会が推奨する「8020運動」を勧める。「80歳になっても自分の歯を20本以上保とう」という国民運動だ。
「20本以上あれば、ほとんどの食べ物をかみ砕くことができるため、生涯、自分の歯で食べる楽しみを味わえ、健康な生活を送ってもらうための運動です」(高橋院長)
実際、80歳で20本の歯を持つ高齢者は増えており、兵庫県香美町における調査では、「8020」を達成している80歳の方が92年からの20年間で約3倍に増えており、自家用車に乗っている割合や携帯電話を保有している割合も、達成者のほうが高いという結果が出ている。
「愛知県知多半島で65歳以上の住民を3~4年間追跡した調査では、歯が19本以下で入れ歯も使用していない人は、20本以上ある人と比較して、転倒するリスクが2.5倍になり、要介護の割合も高かったといいます」(谷川氏)
しかも、高齢者は歯周病(歯槽膿漏)の罹患率が高い。年を取ると、程度の差はあるが、ほとんどの人が歯周病になる。歯周病になると、歯周ポケット(歯と歯茎の間の溝)が深くなったり、歯根が露出する。そのため、歯が長く見えることにもなるのだ。
「歯が抜け落ちる大半が、歯周病によるものと見られます。これは、歯と歯茎の間の溝、口腔内に細菌が住みつき、歯茎に炎症を起こすからです」(高橋院長)
一般的に歯周病は40歳前後に発症する場合が多く、40歳以上の8割が歯周病ともいわれている。
「歯周病の一番の予防法は磨き残しから歯に付着するプラーク(歯垢)の除去と、歯のチェックが大事です。健康な歯茎は引き締まったピンク色をしていますが、炎症を起こしていると、赤く腫れたりプヨプヨしたりしているのでわかる。口臭や口の中のネバつきを感じることでもわかります」(高橋院長)
長生きするためにかみしめたい教えである。