「PM2.5」という耳慣れない物質が西日本を中心に飛来しているという。重篤な健康被害をもたらす物質は中国・北京からやって来たのだ。
*
1月13日、北京市に外出自粛警報が出された。市を覆った「霧」が汚染濃度を上げ、大気汚染指数が最悪のレベルになったからだ。山形大学理学部地球環境科の柳澤文孝教授が解説する。
「冬は暖房用の燃焼が増えますが、地面が冷えているので空気が動かず汚染物質がたまります。加えて霧は無風で空気中に小さな水滴が浮遊している状態です。この水滴に汚染物質が溶け込んだ酸性霧として漂っています」
最悪なのは、その霧が晴れた時だという。高濃度の汚染物質の塊の中に住民が浸っている状態になるというのだ。
「2000年半ば頃までは工場等で使われる石炭燃焼による硫黄酸化物が主要な原因物質でした。最近では経済発展によって、石炭に加え、車が急増しています。車の排気ガスにはPM2.5という微小粒子状物質や窒素酸化物が含まれています」(前出・柳澤教授)
08年に環境省が発表した「微小粒子状物質健康影響評価検討会報告書」には、PM2.5が「呼吸時に気管を通り抜けて気管支や肺の奥まで達するため、様々な健康影響が懸念されています」とある。
「粒径は2.5μm(マイクロメートル)で、スギ花粉(20μm)より小さい。特殊なマスクでないと防げず、防御手段がないのです。北京大の調査では北京、上海、広州、西安でPM2.5を原因とした死者は年間で8000人に上ることがわかりました。肺ガンや気管支ぜん息、心臓病の原因になり、放射能をしのぐ毒ガスです」(外信部記者)
影響は特に幼児や老人に出ており、北京では小児科の呼吸器・ぜん息部門に人があふれているという。1月16日以降は風が吹き、翌日、汚染物質は日本に流れてきている。
「北京から上海の平坦な部分=華北平原の高さ2000メートル付近に汚染物質がたまります。冬型の北西季節風の際は中国から運ばれている汚染物質は多くはありません。ところが、季節風が弱まるとたまった物質を高気圧が日本に押し流すのです。運ばれてくる時間はわずか半日で、北西の季節風がやんで3~4日暖かい日が続く時に飛来します。春になると黄砂に付着していたり光化学スモッグになることもあります」(前出・柳澤教授)
PM2.5は現在、西日本を中心に飛来しているというが、先の北京大の発表に基づいて人口比で計算すると、同レベルのPM2.5が飛散すれば、実に年間1万人もの死者が出ることになる。予断を許さない状況が続いているのだ。