「俺も今度、チーズフォンデュの本を出そうかと思って。『たけしとフォンデュ』」
少し前、なぜか殿とスイスの山岳地帯の郷土料理・チーズフォンデュを食べる機会があったのですが、殿が一心不乱に小さく切ったパンにチーズをひたひたとフォンデュする姿がやたらおかしく、ついふざけたくなったわたくしが「殿、このチーズフォンデュはいけますね。もう僕、フォンデュしないと生きていけない体になってしまいました」と、フォンデュをダシにふざけ出すと、殿はすぐさま、ふざけに乗る形で、冒頭の“チーズフォンデュボケ”を放り込んできたのです。
こうなると、殿のフォンデュボケは止まりません。
「俺が昔、足立区のフォンデュボーイって言われてたの知ってる?」
「あれだよ。昔、北千住に住んでた頃、北フォンデュ、南フォンデュって駅があったんだから」
等々、思いつくままのボケを食卓で炸裂させていました。殿はこういった形で“弟子のボケに乗って、どんどん負けじとボケていく”といったやり取りを、実によく実践します。
15年程前、殿のもとに、ある方から国産のワインが山のように送られてきたことがあり、殿はそのワインを「俺はいいから、お前らで飲め」と、ほとんど口にすることなく、わたくしたちが頂いておりました。
当時、殿のもとには、国産ワインの他に、恐ろしく値の張るビンテージワインもよく送られてきていたため、順番的に殿が国産ワインを口にするタイミングがなく、わたくしたち弟子が遠慮なくガブガブと頂いていたのでした。そんな光景を見ていた殿は、もう我慢ができないといった感じで、「お前たち、しかしうまそうに飲むな~。やっぱり一口くれ」と、ボケるので、わたくしたちも「殿には国産物はまだ早いです。僕たち、もうこれを飲まないと、眠れない体になってしまいました」と、ボケで返すと、最後には殿が、
「よし、こうしよう。俺がいつも飲んでるこっちの高いワインと交換しよう。それで山梨あたりに土地買って、みんなでワインを作ろう」
と、ノリにノッて、その日の軽いボケ合戦を締めくくったのでした。話をフォンデュへ戻します。
とにかくやたらと楽しいチーズフォンデュ晩さん会があった5日後、殿に会い、「殿、先日はチーズフォンデュ、ご馳走様でした」と、わざと仰々しくお礼を述べると、
「おう。あれ、結構いけたからよ、あの後もう1回チャレンジして、またフォンデュしちまったよ」
と、1週間に2回もフォンデュした事実を、さらりと告白したのでした。とにかく〈ビートたけし70にしてチーズフォンデュにハマる〉です。で、これは勝手な推測ですが、もしかしたら殿の前世は、アルプスのチーズ職人だったのではないかと──。そう思うと、殿があれほどうれしそうにフォンデュする姿も、わたくし、納得がいくのです。はい。
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◆プロフィール アル北郷(ある・きたごう) 95年、ビートたけしに弟子入り。08年、「アキレスと亀」にて「東スポ映画大賞新人賞」受賞。現在、TBS系「新・情報7daysニュースキャスター」ブレーンなど多方面で活躍中。本連載の単行本「たけし金言集~あるいは資料として現代北野武秘語録」も絶賛発売中!