尖閣諸島を巡る日中間のあつれきは、中国艦による海上自衛隊の護衛艦へのレーダー照射でいよいよ新たな局面に突入した。はたして、今回の挑発は戦争への布石なのか、それとも軍の暴走なのか。本誌連載「田母神大学校」でおなじみの元航空幕僚長の田母神俊雄氏が、「俺様大国」の思惑をバラす!
1月30日、中国海軍のフリゲート艦が、海上自衛隊の護衛艦「ゆうだち」に対し、射撃用の火器管制レーダーの電波を照射していたことが発覚しました。尖閣諸島周辺海域で起こったこの件、日中双方の艦船の距離はわずか3キロだったそうです。
またそれから遡ること、1月19日にも護衛艦から飛び立った日本のヘリコプターに対しても同様のレーダー照射があったことも明らかになっています。
今回の中国側の行為は、いわばミサイルの引き金に手をかけたわけで、「中国の挑発行為は、確実に次なる段階へと移行した」と報道されました。
では、一般的にはなじみの薄い「レーダー照射」とは、どれほどまでの脅威か、お話ししましょう。
今回、問題視されている火器管制レーダーによる電波照射とは、ミサイル射撃のため、戦闘時に外国の艦船や戦闘機に向かって行われるものです。通常、護衛艦や戦闘機などは、「ミサイル警報装置」を装備しており、スイッチを入れておけば、仮に電波照射を受けた場合に、即座にわかる仕組みになっています。
ただ一般的には、艦船が外国の護衛艦や戦闘機などに対して火器管制レーダーによる電波照射は、公海上では通常行いません。敵対行為と見なされる可能性があるからです。
もちろん敵対国の艦艇や航空機が相手国の領海や領空に侵入した場合は、相手国は火器管制レーダーの電波照射をして、これへの対処を準備することはあります。また敵か味方かわからない状況下で、艦船や戦闘機を識別するために火器管制レーダーの電波照射が行われることもありえます。
レーダーにはいくつかの種類があります。今回、中国が照射した「火器管制レーダー」とは、攻撃用であり、ビーム幅を狭くして、ピンポイントで電波を目標に当て、詳細な目標情報を得るため使用されるものです。
一方、広い範囲が見渡せる「捜索レーダー」の場合、目標までのおおまかな方位や角度を探知するもので、両者は使用目的が異なります。
中国の火器管制レーダーが、どのような周波数帯を使っているのかはわかりませんが、通常の捜索レーダーは周波数帯域が低く、1000〜3000メガヘルツを使うのに対し、火器管制レーダーは周波数帯域が高く、Xバンド帯として7000〜9000メガヘルツを使うことが多いようです。今回は周波数の高い電波が連続して照射されていたと思います。火器管制レーダーによる詳細な目標情報がなければミサイル射撃を実施することはできません。
また、最近はフェーズドアレイレーダー(レーダーを回さず電子ビームだけを振るタイプ)により、一つのレーダーで捜索と攻撃(サーチ&トラック)を同時に行えるようになっています。ピンポイントで目標にミサイルを撃ちながら、他の目標も探せるという非常に優れたタイプであり、世界的にもスタンダードになっています。
火器管制レーダーの照射自体は、直ちに危険ではありません。中国が護衛艦にレーダーを照射しても、ミサイルが発射されるまでには、2重、3重の安全装置を2人ないしは3人の兵士で、同時に外さねばなりません。つまり、日本は、中国の練習台とされただけなのです。