排尿障害は前立腺肥大によるものだけでない。前立腺ガンの“症状”として現れることもあるというから、侮ってはいけない。
「前立腺ガンは尿道を狭くするので、自覚症状が前立腺肥大症と似ています。初期には自覚症状があまりない前立腺ガンですが、排尿トラブルが生じた場合は、前立腺ガンの可能性があります」
と語るのは、帝京大学付属病院泌尿器科の知名俊幸医師だ。
「前立腺ガンの場合、40代50代の働き盛りからちらほら見受けられるようになり、60代になるとかなり進行している場合があります。4~5年くらい排尿の悩みがあったが様子を見ていたら、健康診断の前立腺腫瘍マーカー(血液中のPSA値)の値が多かったので、来院し、検査の結果、前立腺ガンだったという患者さんが増えています。PSA値は4以上の数値が出たら要検査です。PSAは前立腺肥大でも高くなりますが、4~20の数値が出たら、2~3割は前立腺ガンの疑いがあります」
欧米では男性ガン死亡率でトップレベルを占める前立腺ガンだが、日本人の場合、胃ガン、肺ガン、結腸ガンなどに比べて羅患率は高くない。しかし、食の欧米化で日本人にも増えているという。また親や兄弟が前立腺ガンにかかった経歴がある場合、発症率は数倍高くなるという。喫煙によってなりやすくなる可能性もあるようだ。
ひどくなるとこんなケースがあるという。前出・知名医師が続ける。
「50代後半の男性でしたが、4年ほど尿の勢いが悪く放置していたが、受診して検査してみたら前立腺ガンとの診断でした。当然、ステージング(転移などの進行具合)の検査もしたのですが、進行性のガンで、単なる腰痛として放置していた腰の痛みが、骨転移の結果と判明しました。しかし、発見が遅かったため、脊髄が圧迫されて下半身麻痺の寝たきりになってしまい、自力排尿ができずに、尿道に管を通しての排尿に、便は浣腸を余儀なくされました」
たかが排尿トラブルと放置していたら、とんでもない事態に進行していることだってありうるのだ。
「排尿トラブルが見られた場合、それが病気によるものであるのならば、受診される方のだいたい約半数が前立腺肥大と、これと合併した過活動膀胱。次いで多いのが、PSA数値異常による前立腺ガンの疑いが。その他に、性行為などによる感染症も考えられます。それ以外の排尿トラブル、例えば、血尿が出た場合は、膀胱ガンや尿管ガン、尿路結石の可能性もあります。ウミが出たり、尿道に痛みを感じたら感染症が考えられるでしょう」(前出・知名医師)
泌尿器科疾患は、いわば下半身の“生活習慣病”。気づかないうちに進行するだけに、尿からのシグナルを感じたら、一刻も早い医師への受診が肝心のようだ。