「わすれないふくしま」(配給:オフィスフォー/トラヴィス。3月2日より東京都写真美術館ホールほか全国順次公開)では菅野さんの他にも、放射能被害で立ち行かなくなった酪農家の現実を追っている。
11年8月、南相馬市のとある牛舎。数頭の牛がまだ生きており、悲しげな鳴き声が牛舎内に響き渡る。その脇では、餌を求めて鉄柵から頭を出したままの状態で崩れ落ち餓死した牛が数十頭、ズラリと並んでいる衝撃的な光景があった。四ノ宮監督が語る。
「もうしかたがないんですよ。着の身着のままで避難を余儀なくされて、しばらくしたら帰るつもりだったのが、原発から20キロ圏内だから帰ることができなくなった。そういうことの象徴ですよ、これは。他にも5、6カ所、牛舎を回りました。豚が死んだ牛を食っている牧場もあった。これが人間の未来の姿になるかもしれないなと思いながら撮影していましたね」
さらに原発から北西へ14キロ、高い放射線量ゆえほとんど人がいない浪江町のエム牧場では、依然として300頭の牛が放牧されていた。牛を見殺しにはできないと、あえて残った場長は、四ノ宮監督のインタビューにこう答えている。
「浪江の状況は絶望的なんだよ。もう帰れない、入れない。客観的にも科学的にも無理なんだよ。じゃあそこでみんなが諦めて、投げてどっか行っちまうとか、ひでぇ話だしさ。何とか踏みとどまる努力をね」
ある日、場長は上京し、東電本店と目と鼻の先、東京・新橋駅前で街頭演説を行った。
「原発の放射能によって私も牛も被曝をしてしまいました。私の飼っている牛はもう商品価値はありません。私たち牛飼い仲間がみんな牛を投げ捨てあちらこちらの牛舎で餓死をする。この責任はあの東京電力にあると思う。津波で流され地震で壊され原発の放射能で追い出され、私たちは仕事、故郷、私たちの人生さえも失ってしまいました」
映画のラストシーンは、バネッサさん宅の日常風景。バネッサさんが、宿題をする長男に「お兄ちゃん、こたつのスイッチ入れて。ハイ、ありがと」。そこでいきなりプツリと終わる。
「なぜこんな中途半端な終わらせ方をしたのか。まだ何の結末もない福島の現状を知ってもらうためです。なおかつ福島を忘れないためでもある」(四ノ宮監督)
東電にこの声は届くのか。四ノ宮監督は第2弾の制作を視野に入れているという。