福島第一原発事故から3年が経過しても、福島にはいまだ故郷に帰れない人々が多い。その避難者の神経を逆なでするような、「原発バンザイ映画」がまもなく公開される。その仰天映画の内容とは‥‥。
2月12日、参議院議員会館講堂で映画の試写会が開かれた。その上映が終了すると、会場からは拍手が湧き起こったという。
その映画のタイトルは「パンドラの約束」。原発を称賛していることで話題となっているドキュメンタリー作品だ。4月19日の公開を前に行われた試写会の主催者は、自民党電力安定供給推進議連だった。この議連は細田博之議員を会長として、原発推進派の議員たちの本丸とされている。
つまり、観客は推進派の面々である。映画への評価が高いのは当然だろう。
しかし、そう単純なことではなさそうだ。入手した映画のパンフレットには、こう記されていた。
〈米国で観客の75%が原子力反対者であったにもかかわらず、終了時にはその8割が支持に変わった〉
その気になる内容だが、ニューヨーク在住の映画監督、ロバート・ストーン氏によって撮られた。かつて反原発ドキュメンタリーを撮影したこともある監督であり、いわば推進派へ転向した人物である。内容はフクシマやチェルノブイリなどの現地取材と反原発派から推進派へと鞍替えした作家、環境保護運動家たちの証言で構成されている。
そして、一貫して主張されるのが地球温暖化である。気候変化の観点から見て、温暖化の原因である二酸化炭素を排出しない原発はすばらしいというひと言に尽きてしまう映画だ。福島での事故を受け、これだけ原発の安全性が疑問視されているというのに──。ところが、それは安価で危険な軽水炉であったためと結論づけ、本来は原子力の安全利用をもくろみ始めた頃から高速増殖炉を普及させることが命題だったというのだ。それは安全で核廃棄物が少なくなるという理由だったが、高価であるがゆえに敬遠されたという。そして、高速増殖炉の進化型の統合増殖炉なる原子炉も紹介されているのだ。
高速増殖炉「もんじゅ」が止まったままの日本で、そんな理屈は通用しないようにも思える。映画を観たドキュメンタリー映画監督の森達也氏もこう話す。
「原発はないほうがいいと思っているので、あえて観ました。原発賛成の論理を知りたくて、そして説得されてもいいと思っていました。しかし科学的な根拠も希薄で、終わったあとで正直、あきれてしまいました」
それでも、この映画の前評判はすこぶる高い。映画ライターが言う。
「当初、東京を中心に大都市圏のみでの上映が予定されていたのですが、ついには福島以外の東北地方での上映も決まったそうです。前評判の高さもあるのですが、東電など電力会社が前売り券を買い漁っているためとも言われています」
何やら再稼働を目指す推進派のプロパガンダに利用されているようなのだ。
前出・森氏が続ける。
「どんな表現をしようと自由であり、この作品も公開されるべきだと思います。ただ、ドキュメンタリーは製作者が想定していた物語を超える物語が映し出されるからこそ、観客を魅了するのです。残念ながら、この作品にそうしたシーンはなく、結論から逆算されて作られたという印象が強い。推進派が脆弱な理屈しか持っていないということを知るうえで、反原発派も観たほうがいいでしょう」
福島の避難者たちよ、この映画を観よう。そして、怒りの声を上げよう!