いまだにリメイクされ続けている「宇宙戦艦ヤマト」など、数多くの名作を生み出してきた漫画家の松本零士氏(75)。SF漫画の金字塔として語り継がれるヤマトだが、アニメ版の「ラストシーン」には、拭いがたい挫折とこだわりがあったのだ。
アニメ版「ヤマト」の最終話、ガミラス帝国を倒し地球へ向かうと画面にエンドマークが出る。ところが場面は続き、放射能汚染されていた真っ赤な地球が青さを取り戻し、ヤマトの飛行音だけがかすかに聞こえてくる。あの印象的なラストは、松本氏本人がこだわったラストシーンだった。
「アニメ『ヤマト』のラストシーンですが、エンディングテーマも流れず終わる手法。あれは僕のアイデアなんです」
74年に放送されたアニメ版「宇宙戦艦ヤマト」は、裏番組のアニメに比べ視聴率も低迷。さらには、制作費がかさんだことで打ち切りという屈辱を味わった。
「もともと36話のはずが、26話で打ち切られたんです。理由は制作費が赤字だったこと。ショックだった。でもこれは修行だと思うようにしました。この直後、書き始めた『999』の原稿を5話分だけ編集者に渡し、気持ちを整理する意味で、アフリカに旅立ちました」
「少年キング」でスタートした「銀河鉄道999」も最初の第5話までを掲載して、人気が出なければ打ち切りになると決まっていた。しかし、松本氏は平静を保ってはいられない。そこで、気分転換を兼ねてケニアを訪れたという。
「サバンナで360度広がる広大な大地を目の当たりにして、『俺が生まれる前から大地はここにある。俺が死んだあともある。視聴率が、人気が何だ。そんなことは小さい問題だ』と。それ以来、そういう絶望感はきれいに吹き飛びました」
帰国した松本氏を待っていたのは、「999」の大ヒットだった。
「日本に帰ったら編集者に『「999」はすごく好評。好きなだけ連載してもいいよ』と言われまして‥‥。打ち切りの恐怖はどんな漫画家でも味わうもの。しかしそれも修行の一つ。それでも諦めない不屈の精神が、漫画家には必要なんです」
そして、打ち切られた「ヤマト」もその壮大なスケールと、子供向けというアニメの既成概念を超えた大人向けの設定で、じわじわと人気が広がり、劇場版も製作され大ヒットの結果に。翌年には第2弾映画も製作された。
松本氏は、個性的なキャラクターについて、意外な裏話を教えてくれた。
「実は、僕の漫画の登場人物のほとんどの名前は兄弟、親戚、知人から取っています。例えば『ヤマト』の古代進は弟の名前だし、ヒロインの森雪は、当時熱心にファンレターを送ってくれた女性の名前からヒントを得ました。他の漫画の登場人物も、小学校の同級生や先生から名前を拝借しています」
さらに、全ての松本作品は「最終回」を迎えていないという。
「私の中では『999』や『ヤマト』も含め、全ての物語が終わってないんです。私の描く漫画の登場人物は、実は先祖や子孫がつながっているんです。例えば『999』の主人公・星野鉄郎。鉄郎の先祖は『男おいどん』の大山昇のぼ太ったです。さらに先祖が漫画『ガンフロンティア』のトチロー、そして同じ漫画に出てくる早撃ちの名手ハーロックが、『宇宙海賊キャプテンハーロック』のキャプテンハーロックの先祖です。こうしてお互いの先祖同士が違う漫画で出会っている。何千年も、何万年も宇宙を越えて、私の作品は巨大な一つの物語なんです。これが全部一つにまとまった時、最終回となる。私の頭の中にはすでにその構想もありますが、今はまだ描きたくない。終わりを描くと、それで自分も終わってしまう気もするから」
松本作品は、新たな話が生み出されるたびに登場人物にその血が受け継がれていく。
「『999』をはじめ、私の作品のタイトルには数字がたくさん出てきます。999というのは1000には満たない未完成の数字。私は、人生は未完成でよいと思っています。もう一歩、あと一歩と完成に近づくために人生がある、それが私の考え方の軸になっているのです」
実は、全て未完成だったという松本作品。その壮大な世界観こそが我々を楽しませてくれているということのようだ。