絶対的エースの不在は、二刀流で埋める──。「仮想東京五輪決勝」として戦われたソフトボールの日米対抗戦・3試合が6月25日まで行われ、日本は2勝1敗とみごと勝ち越した。
アメリカと日本は常に国際大会で優勝を争ってきた。そのライバル国に対し、エース・上野由岐子を欠いたメンバーで強豪ライバル国に競り勝てたのは大きい。1勝1敗で迎えた最終日、宇津木麗華監督がマウンドに送った二刀流・藤田倭は、まさに「東京五輪の新エース」になるかもしれない。
「エースの風格みたいなものが出てきましたね。宇津木監督は第1、2戦で『打者・藤田』を温存し、第3戦のマウンドにすべてを懸けさせたんです」(体育協会詰め記者)
二刀流・藤田について少し説明すると、変則三冠王でもある。16年、国内リーグ戦で「打者」として、本塁打8、打点20をマークし、両タイトルを獲得。さらに、「投手」として上野をしのぐ14勝を挙げ、“プラス最多勝”となって、さらにMVPにも選ばれている。12年から代表チーム入りしているが、評価がイマイチだった理由は、「投手」としての欠点があったからだという。
「喜怒哀楽がすぐ顔に出るんです。打たれたら悔しがり、ピンチでは悲壮感いっぱいの表情になり、勝てば人一倍喜びます。ひどい時は際どいコースをボールと判定されただけで、気持ちが顔に出てしまい…」(前出・体協詰め記者)
「精神的に弱い!」と、宇津木監督に叱られてきた。しかし、エース上野がボール直撃で顔面骨折の重傷を負い、宇津木監督は藤田を最も重要な第3戦に先発させると決めた。第1、2戦では打者としての出場もさせなかったのだから、チーム全体にも「藤田と心中」「勝敗は藤田次第」の思いは広まっていった。
強豪アメリカ打線に何度も寄せ込まれたが、表情は変えなかった。ピンチを脱した時も、である。「無表情ピッチング」が冴え渡った。
「近年は打者にウエイトを置いた二刀流でした。もともと投手としての素質は高かったんですが、そこにハートみたいなものが込められるようになってきました」(関係者)
指名打者制なのでバッターボックスには立たなかったが、アメリカ戦での勝利が投手・藤田に自信を与えたはずだ。おそらく、8月の世界選手権では上野も帰ってくる。しかし、藤田中心のローテーションも十分にあり得る状況だ。
世界選手権は地上波TVでも放送される予定。昨夏は中畑清氏が解説席に座ったが、「よくわからないんだけど」をまた連呼したら、「オンナ大谷を知らないのか!?」と突っ込まれてしまうだろう。
(スポーツライター・飯山満)