東京で開催される「柔道世界選手権」(8月25日開幕)は、山下泰裕・新JOC会長の手腕が問われる大会ともなりそうだ。
「山下会長は就任後の会見で、東京五輪のメダル獲得の目標数を聞かれ、『金30個は十分に可能。上方修正しても』と強気なコメントを出しています。山下会長は全日本柔道連盟の会長も兼任していますが、その柔道がヤバイとの声が世界選手権直前、囁かれるようになっています」(体育協会詰め記者)
柔道が「お家芸」と言われたのは、昔の話。ルール変更が繰り返され、大技を一本決めるというよりも、ポイント(=有効)をコツコツと積み重ねていくスタイルになった。日本勢は苦しみながらも対抗してきたが、各階級ともライバルが多く、安泰とは言えないはず。山下会長の強気発言は選手を鼓舞する意味もあったようだが、こんな声も聞かれた。
「金メダルを確実に争うであろうライバルたちが欠場を決めました。手の内を明かさない作戦でしょう」(前出・体協詰め記者)
男子100キロ超級で五輪連覇中のテディ・リネール(フランス)、同73キロ級の18年の世界選手権(バクー)王者である安昌林(韓国)の2人が、早々に不参加を表明した。特に、リネールがアヤシイ。
というのも、リネールは前回のリオデジャネイロ五輪大会でも、直前の国際試合をキャンセルし、ぶっつけ本番で臨んでいる。
欠場の理由は左肩の故障。当時、左肩を手術したのは本当だが、他国ライバルがリネールは出場するのかどうか?と、探りを入れていおり、五輪本番では「払い腰」を多用。これまでと異なる攻撃で日本勢も他国ライバルたちを翻弄させた。
「リネールに対する日本勢の印象は『基本に忠実な選手』というもの。無理に大技を仕掛けてこないし、日本勢と技の読み合いができる選手でもあるんです」(関係者)
また、安昌林についても、首の故障と欠場の理由を伝えていたが、東京五輪に標準を合わせているのは間違いない。日本勢はこの世界選手権でメダルラッシュを狙い、山下会長の就任も祝福したいところ。しかし、今から本番と同じ戦い方をすれば、リネールや安昌林以外のライバルにも手の内を明かすことになる。
「体育協会内には、陸上、柔道、水泳の覇権争いみたいなものがあります。今回の世界選手権で日本勢が大敗することは考えにくいが、何かあれば、山下体制は早くも崩壊ということにもなりかねません」(前出・体協詰め記者)
柔道がコケれば、金メダル30個の目標は果たせない。ライバル不在の世界選手権で勝利しても、山下会長の胸中は複雑だ。
(スポーツライター・飯山満)