中国から猛毒汚染物質PM2.5が飛来し、鳥インフルエンザの上陸も懸念される。そのうえ北朝鮮からは「ミサイル」──。隣国の脅威にさらされっぱなしの我が国だが、今回のミサイル有事は勃発時から「不気味度」が違った。かの国の若き指導者を駆り立てたものは何だったのか。
日本国内が一気に緊迫感に包まれたのは4月7日。北朝鮮からの弾道ミサイル発射に備え自衛隊に迎撃態勢を取るよう、小野寺五典防衛相(52)が「ミサイル破壊措置命令」を発動したのがきっかけだった。
日本政府は、北朝鮮が4月上旬に射程距離3000キロメートル以上の新型中距離弾道ミサイル「ムスダン」を、移動式車両に載せて日本海側の舞水端里〈ムスダンリ〉方面に移動させていることを把握。過去3回のミサイル発射(09年3月、12年3月、12年12月)と異なる「発射予告なし」という状況のまま、日本海に展開したイージス艦に海上配備型迎撃ミサイル(SM3)を、防衛省にも地対空誘導弾パトリオット(PAC3)を配備した。北朝鮮問題に詳しい韓国のジャーナリストが説明する。
「北朝鮮は、3月11日から韓国で始まった米韓合同軍事演習に『戦争演習だ』と強く反発しました。韓国軍約1万人、米軍約3500人が参加し、ステルス戦闘機や戦略爆撃機、イージス艦が展開されたからです。朝鮮労働党の機関紙『労働新聞』で即座に反撃を開始しました」
それは次のような過激な文章だった。
〈いよいよ最終決戦の時が来た。北朝鮮の多様化された核攻撃手段はすでに命令を待つだけの状態にあり、米国と韓国の巣穴を火の海にするだろう〉
〈米国に対し、核による先制攻撃を行う。米国に土地を差し出す日本も攻撃する。青森の三沢基地、神奈川の横須賀基地、沖縄も射程圏内〉
完全に日本を武力攻撃するとの脅し、挑発だった。
さらに北朝鮮の臨戦態勢を示す一つが、開城〈ケソン〉工業団地からの北朝鮮労働者の撤収発表。この工業団地は韓国と北朝鮮の軍事境界線の北側にある共同事業地帯であり、南北協力の象徴と言われる。北朝鮮はそこに反旗を翻したのだ。ソウル特派員が話す。
「04年から始まったこの工業団地での共同事業は北朝鮮にとっても外貨獲得のドル箱であり、5万3000人の雇用で年間600億円以上を稼いでいる。しかも受け取った給料は労働者にたった1割だけ渡し、9割は北朝鮮政府、すなわち金正恩第一書記(30)を筆頭とする軍部がピンハネしていました。その金を手放す危険を冒してまでの捨て身の作戦で、合同軍事演習を分断しようとしたわけです。まぁ、撤収はあくまで暫定措置だ、という指摘もありますが」
北朝鮮お得意の瀬戸際外交‥‥いや、今回は瀬戸際を超えてしまったのである。