日本にしてみれば非常に迷惑な話だが、北朝鮮にとって、賠償金の請求は正当かつ合法的な「経済活動」の一環とも取れる。対して、日本が警戒すべき“二の矢”は完全に非合法な裏技だ。国際ジャーナリストの山田敏弘氏が明かす。
「今年5月、情報セキュリティソフトの大手、シマンテック社の幹部が米上院の国土安全保障・政府問題委員会で、『16年2月に、北朝鮮に拠点を持つグループがバングラデシュ中央銀行から8100万ドル(約92億円)を不正送金し、奪った』と証言しました。さらに北朝鮮が国ぐるみで犯行に及んでいることも指摘したのです」
海外の金融機関から大金を盗み出す大胆なハッキング行為が、国家ぐるみで行われていることは明白だ。そして恐るべきことに、その「サイバー特殊部隊」の能力はきわめて高いと言われている。
「部隊の人員には北朝鮮全土から生え抜きを集め、ロシアや中国でプログラミングやサイバー攻撃の技術を徹底的に学ばせます。そのレベルは中露両国やアメリカという“サイバー大国”にもヒケを取りません。14年にはアメリカのソニー・ピクチャーズ社が北朝鮮から攻撃を受け、大量のデータが抜かれたうえに社内のパソコンの7割以上が破壊される事件も起き、その結果、サイバー攻撃への対抗措置として初めて、経済制裁を科す大統領令が出されたほど問題視されています。事実、アメリカの他にポーランドやインドなど30カ国以上の金融機関が北朝鮮の攻撃と見られる被害にあっていることがわかっています」(前出・山田氏)
前述したバングラデシュの「92億円強奪事件」について、ハッキングが発覚したのは偶然が重なった結果だと山田氏は警鐘を鳴らす。つまり、現在はまだ被害が確認されていないだけで、日本マネーがすでに略奪されている可能性すらあるのだ。
「北朝鮮がバングラデシュ中央銀行を襲った際に入り込んだ送金システム『SWIFT』は、世界中の200以上の国または地域で、1万1000以上の銀行や証券会社が利用しています。当然ながら日本でも、ほとんどの銀行が採用しています。インターポール(国際刑事警察機構)関係者に聞くと、同事件ではただシステムに侵入されただけではなく、『SWIFT』自体がコピーされた可能性もある、ということでした。セキュリティ意識の高い日本ですが、北朝鮮側もソフトウエアの解析を続けるはずで、同様の被害にあう可能性は否定できません」(前出・山田氏)
8月29日に発射され、北海道の上空を通過したミサイル「火星12号」に関して、
「日本人を驚愕させる大胆な作戦」
と発言した金正恩氏。上空にばかり気を取られていたら預金がゼロに──そんな悪夢が現実にならないことを祈るばかりだ。