政府も「南海トラフ巨大地震」の被害を想定している。内閣府の発表によれば、南海トラフに、東日本大震災とほぼ同じ規模であるM9.1クラスの地震が発生した場合、死者数は実に32万3000人に上るとされている。
また、経済的な被害は220兆3000億円、全壊・消失する建物は238万6000棟に上るとされている。ある防災学専門家が説明する。
「実に国内総生産の4割が地震によって奪われるのです。10メートル以上の津波は5県、27市町村に及び、発生から1週間で500万人が避難所で過ごすことになります。東日本大震災の10倍を超える被害になります」
つまり、最大規模で南海トラフ地震が発生すれば、列島は壊滅寸前にまで追い込まれるのだ。
しかし、次なる震源地はこれに限らない。東日本大震災以降、福島県のいわき市や秋田などで地震が増えているのだが、「連鎖する大地震」(岩波書店刊)の著者で、東北大学災害科学国際研究所教授の遠田晋次氏はこう指摘する。
「これらは東日本大地震の影響です。東日本大地震は震源がすごく大きかったのですが、それを取り巻くような地域に影響があります。少なくとも数十年は、広い意味での余震が続く地域があるでしょう。場所は、関東~中部地域、北陸~東北地域ですね」
もちろん、地震の影響はだんだんと衰えていくのだが、震災前の状態に戻るまでには周辺域に長時間、緊張状態が続くというのだ。そして、冒頭で触れた中国・四川省、淡路で発生した一連の地震は、それを示しているのだという。
「四川の地震は08年の四川大地震の余震であり、今回の淡路の地震は18年前の阪神淡路大震災の余震です。ふだんあまり地震が起こらないところでは、発生した大地震の影響が長く残るのです。活断層・内陸型直下型地震の影響も周辺域に長く残り、大きな地震が起こると、数十年とか100年くらい影響が残ります」(前出・遠田氏)
南海トラフのようなプレート型の地震では津波が大きな被害につながることが予想される。しかし、内陸直下型地震には、別な次元の対策が必要だという。
「津波は防災意識を高めれば高台に避難するという減災手段があります。東日本の教訓は生かされるはずです。一方で直下型の場合、断層がズレて揺れるまでの時間が短く、逃げる余裕がない。緊急地震速報も間に合わず、身構えるという時間的余裕も期待できません。結局のところ、建物の耐震補強を行って潰れない建物にするしかないのです。こうした地震にも命が助かる対策を練るべきだと考えます」(前出・遠田氏)
降って湧いた「二等辺三角形」騒動だが、こうした注意をあらためて喚起した効果はあったと言えよう。