噴火には多くのタイプが存在する。富士山は歴史上、さまざまなタイプの噴火を起こしている。その中でも、最も甚大な被害をもたらすのが、「山体崩壊」である。山の形状が変化し、岩なだれを起こす。静岡県の防災会議の試算によれば約40万人が被災するという。
山梨大学大学院教授で同大学地域防災・マネジメント研究センター長を務める鈴木猛康氏が話す。
「噴火のタイプは火山口までマグマが上昇してこないとわからないのが実情です。しかし、マグマが地表に向かって動きだせば、斜面に変状が現れます。したがって、富士山噴火は事前にわかりますから、その間に避難すれば人的被害は最小限になり、死者を出さないで済むでしょう。山梨、静岡、神奈川3県の連携、ハザードマップの見直しなど、行政側の活動は活発化しています。今後は、住民や観光客への確実な情報伝達手段の複数確保、具体的な避難ルートや避難場所の確保などが必要です」
しかし、備えなければならないのは噴火だけではない。過去に富士山噴火の前後には巨大地震が発生しているためだ。
「記録が残っているものだけで、富士山噴火と巨大地震が連動したとされるケースは2回あります。864年の貞観大噴火では、5年後に東北地方太平洋沖で貞観地震という巨大地震が発生。この地震で富士五湖や青木ヶ原が形成されました。また、1707年の宝永大噴火の49日前には遠州灘沖から紀伊半島沖を震源とした宝永地震という巨大地震が発生しており、多くの死者が出ています」(前出・木村氏)
すでに東日本大震災が起きたのだから、と安心するのはまだ早い。貞観大噴火と連動した巨大地震は1回だけではない。887年に仁和地震というM8.5クラスの巨大地震が発生しているのだ。その震源地は宝永地震と同様に、いわゆる南海トラフと見られている。
南海トラフとは、静岡県の駿河湾から九州東方沖まで続く深さ4000メートルの海底のくぼみである。このくぼみ(トラフ)は海側のプレート(岩盤)が陸側のプレートの下に沈み込んでおり、400年前からM7~8クラスの地震が繰り返し起きているのだ。
その震源域は東海地震、東南海地震、南海地震と3つに分類されている。
「歴史的に見れば、3つの震源域のいずれか単独で地震が発生するケースより、3つの震源域での地震が連動するケースのほうが可能性としては高い。特に、東日本大震災と同様な地震であった貞観地震のあとに、恐らく3連動であろう仁和地震が発生したことを考えると、次も3連動型の巨大地震と考えて備えるべきです」(前出・鈴木氏)