「こりゃまたすげ~な。ここで宴会できるな!」
11月7日19時半過ぎ、ボクシングの井上尚弥vsノニト・ドネア戦を観戦するべく、さいたまスーパーアリーナのだだっ広いVIPルームに入った殿は、その部屋の豪華さにまずは軽く驚くと、冒頭の言葉を漏らしたのです。
で、そのVIPルーム、部屋の外にかなり大きなバルコニーがあって、そのバルコニーにはイスがズラリと設置されていて、お客の歓声などを感じながら、臨場感たっぷりに生観戦ができるようになっており、まさに、至れり尽くせりなVIP仕様となっていました。
ちなみに、部屋とバルコニーの仕切りには、大きな防音の窓と重厚なカーテンがあり、バルコニーに出る時は、カーテンと窓を開け、行き来するようになっています。で、そんなVIPルームの特典を有効に使わないのが殿です。殿はまず、窓のカーテンを少し開け、バルコニーを確認すると「へ~、こっから外でも観れんのか」と、いたって普通の感想を漏らしたのですが、すぐにカーテンを閉め、部屋のモニターテレビを見始めました。そして、「お前、試合が始まったら、そっち(ベランダのほうを指指して)行って観て来いよ」と、わたくしに生観戦を進めると、「俺はいいから、ビールでも買って来いよ」と、高額紙幣を手渡してきたのです。
殿に言われるがまま、売店でビールを買い、VIPルームに戻ると、リングの中ではメイン前の、井上尚弥選手の弟のタイトルマッチが始まっており、わたくしはすぐさま、ベランダへ出て、ビール片手に生観戦を決行。一方の殿は、ベランダに出てくる様子もなく、かたくなに外の歓声が遮断された部屋の中で、テレビモニターでの観戦を貫いているではありませんか。
で、諸々あって、いよいよメインイベントの井上尚弥選手が登場となり、さいたまスーパーアリーナがドッと沸きに沸いたのですが、殿はやはり部屋から出てきません。この時、弟子という立場でありながら、ベランダでビール片手に悠々と生観戦している自分がなんだかいけないことをしている気になり、いったん部屋に戻って「殿、ベランダに出て観ないんですか?」と、勧めてみたのですが、
「俺はいいよ。ここで十分だ」
と、まったくベランダでの生観戦に興味を示さないのです。結局、試合はフルの12Rまで行ったのですが、その間、殿は一度もベランダに出てくることなく、最後まで、外の歓声が遮断された部屋で、テレビモニターでの観戦を続けていました。そして、試合が終わるとすぐさま、「よし、俺は帰るぞ」と、腰を上げ、
「だけどよく考えたら、最後までテレビで観てただけだったから、家で見てるのと何にも変わらなかったな。いったい俺は今日、埼玉まで何しにきたんだよ!ちきしょ!!」
と、自分で自分に客観的ツッコミを一発入れると、足早にさいたまスーパーアリーナを後にしたのでした。
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◆プロフィール アル北郷(ある・きたごう) 95年、ビートたけしに弟子入り。08年、「アキレスと亀」にて「東スポ映画大賞新人賞」受賞。現在、TBS系「新・情報7daysニュースキャスター」ブレーンなど多方面で活躍中。本連載の単行本「たけし金言集~あるいは資料として現代北野武秘語録」も絶賛発売中!