日活出身の女優といえば、浅丘ルリ子と吉永小百合の名前がすぐに挙がる。2人は現役で活躍中のため、それも当然の話。
ところが一方で、今、名画座で日活女優の作品を上映して最も客を集めることができるのは、彼女たちではない。その先輩格にあたる“和製オードリー・ヘップバーン”芦川いづみなのだというのだ。
「彼女は黄金期の日活映画を支えていましたが、1968年に藤竜也と結婚して女優を引退。以降、2007年に開かれた日活出身の俳優とスタッフによるパーティー以外は、公の場に顔を出していません。そんなこともあり、昨今はその存在自体がファンの間で神格化されているんです。昨年デビュー65周年を記念して発売された『10作品DVD』には、予約が殺到し、さらに今年3月から6月にかけ東京の『神保町シアター』と大阪の『シネ・ヌーヴォ』で行われた特集上映も連日大入り状態。館内で販売されたブロマイドも初日で売り切れるほどなんです」(専門誌編集者)
そして12月9日には、彼女の魅力に迫った『芦川いづみ 愁いを含んで、ほのかに甘く』(文藝春秋)も出版される。中身は引退後初のロングインタビューが収録されているほか、日活全作品の出演作品スチールも収録。“完全保存版”というキャッチコピーにふさわしいものになっているという。
「女優としての活動時期は1953~68年のわずか15年間ですが、その短い期間で、あそこまで一気に人気女優にまで上り詰めた女優は他にいないのでは。そんな彼女のイメージは、清楚とか一歩下がった感じなど、まさに古き良き時代の女性という説明が当てはまります。特集上映に集まった客には、リアルタイムでの活躍を知らない40代から50代と見られる男性も数多く見られ、彼女のようなタイプの女優が現代においては皆無であることが、より一層、魅力を高めているのかもしれません」(前出・専門誌編集者)
伝説は今後も語り継がれそうだ。
(映画ライター・若月祐二)