アベノミクスでは雇用に関して、成熟産業から成長産業へというのがスローガンとしてあります。「第3の矢」と呼ばれる部分で、雇用についての抜本的な転換を行おうとしているのです。
こう語るのは、労働・貧困を研究している川村遼平氏だ。事務局長を務めるNPO法人「POSSE」に届く相談から多くのナマの実態が見えるという。
40年ぶりの大転換で、象徴的なのは「雇用調整助成金」に関するもので、オイルショックの頃にできた制度です。
欧米型の雇用政策では、企業が不景気になると、リストラを行います。失業したら失業保険で生きていってもらうという仕組みです。
対して、日本は雇用維持型の政策です。クビにせずに休職という扱いにし、休職中の給与に対して、企業に補助金を出すということをやっていたのです。正社員を企業の中にとどめながら、雇用を維持するという仕組みなので雇用維持型の雇用政策と言われます。今回は、これをなくすというのです。
これまでも本誌は、クビ切りと転職をこれでもかと促す法案が産業競争力会議で俎上に載せられていることを伝え続けている。この助成金切りもここから提案されている。
このまま日本型雇用を維持しても、国際競争力がつくのかと考えている人たちが後押しをしていると考えています。辞めさせるほうの仕組みは整えつつあり、自由に解雇することで、経営者が会社を経営しやすいようにしているのです。一方で、雇用を移動させるビジョンはまだありませんでした。しかし、雇用調整助成金をなくす代わりに、人材ビジネスの会社に助成金を作ることで移動を活性化しようとしているのです。
「第3の矢」の立案を行う産業競争力会議には、人材派遣会社パソナの会長・竹中平蔵氏も名を連ねている。一連の雇用構造の転換が誰の“得”になるのかは火を見るより明らかであろう。さらに自民党は、セーフティネット=生活保護の運用を変更させようとしているのだ。
生活保護の改正案を出していて、「水際作戦の合法化」が行われようとしています。貧困に溺れた状態にある人を、窓口という水際で追い返すので呼ばれるようになりました。これまでは保護を申請した場合、行政は申請を拒んではならず、本当に困っているかどうか、調査をしなければなりませんでした。その申請を受け付けないという改正です。貧困者を殺しにきたなと思いました。
クビ切り法案による失業から貧困になったサラリーマンをアベノミクスは「死ね」と突き放す。また、法案審議以前に、現場では驚くべきことが起きているという。
今までは本人の名前、申請の意思、現在の収入を書いて出せば申請できたのですが、厚労省が作った書類に書かなければならなくなりました。さらには、この書類を渡さないという対応を取るようになっているのです。現に、京都の舞鶴市では、申請書の受け取りさえ拒否した事件も起こり、問題となりました。
厚労省は今までの運用を条文化しただけで変わっていないと言いますが、確かに運用は変わったのです。重要なことは、本当に困っているかどうかを調べないというところです。これまで、水際作戦は違法だったのでできなかったのですけど、法律の改正により、これが合法になる。国民を見殺しにする恐ろしさを感じますね。
川村遼平(NPO「POSSE」事務局長)