「あの怪演ぶりは『真田丸』(16年)で真田昌幸を演じた草刈正雄を超えたね」
ネット上でそんな声があふれたのは、NHK大河ドラマ「麒麟がくる」で斎藤道三に扮した本木雅弘である。1月26日に放映された第2話は、タイトルが「道三の罠」とあるように、主人公・明智光秀(長谷川博己)の主君である道三の権謀術数ぶりにスポットを当てている。
尾張の織田信秀(高橋克典)が率いる2万人の兵に攻め入られ、わずか4000人の美濃の軍を率いる道三は、撤退して籠城を決め込む。落胆する光秀らをよそに、実は火のついた俵を敵陣に放り込むなどの奇襲で勝利を収めるのだ。
さらに、道三の「怖い人となり」がクライマックスで描かれる。道三を「成りあがり者が!」と罵倒する娘婿・土岐頼純(矢野聖人)に対し、みずから茶を点てて「まずは茶でも」とすすめる。緊迫の時間が流れ、頼純は茶を飲み干し、そして床に崩れ落ちて息を絶つ。
この場面にSNSユーザーが驚いたのは、演じた本木がサントリーのお茶飲料「伊右衛門」のCMを04年から15年以上も務めていること。
「もう怖くて『伊右衛門』が飲めない」
「こんな怖ろしい『伊右衛門』あるか」
「CMどうなっちゃうの?」
伊右衛門のワードがトレンド入りしてしまうほどの騒ぎとなった。一歩間違えばCM降板間違いなしの演出だが、ところがサントリーは太っ腹な対応。翌日の同CMの公式ツイッターでは、CMで本木の妻役を務める宮沢りえの画面にこんなテロップが入る。
〈昨晩は、主人が熱演のあまり、皆様をお騒がせしてしましたようで、すみません。まずは心を落ち着け、茶などお召し上がりくだされ。妻より〉
この粋な切り返しには、サントリーの好感度が爆増し、当の本木は別の視点からシーンを振り返って、こうコメントしたものだ。
「実人生でも破天荒な父(内田裕也)を持つ娘の婿ですので、このシーンはひとごととは思えず(汗)。我ながらぞっとしました」
久々の本格的な大河ドラマとして視聴率も評価も高い「麒麟がくる」だが、ネットが盛り上がる仕掛けは随所にある。第1話の冒頭では、野盗と光秀らの戦いのシーンに、長谷川が主演した「シン・ゴジラ」(16年)のテーマ曲に似た重厚なサウンドが流れていた。今後も毎週日曜20時には、どんなサプライズが待ち受けているだろうか──。
(石田伸也)