さながら「師匠」と「弟子」の関係の2人。ところが、佐々木氏が中央の馬主になったばかりの07年、ある「事件」が起きていた。
香港で行われたクイーンエリザベスII世杯(GI)で、武騎乗の近藤氏所有馬アドマイヤムーンが出走し、3着に終わる。前出・JRA関係者が振り返る。
「かなり遅い展開のレースながら、武は前に行かず、直線になってやっと外に出すも届かず。近藤氏は『あの積極性のない競馬は何だ!』とどなりつけ、昵懇だった2人の間に亀裂が入った。以降、武は近藤氏の馬には乗っていません」
絶縁状態となった大馬主と天才騎手だったが、
「実は09年のとあるパーティで、武と親しい藤田伸二騎手(41)が仲介して、2人が握手をするシーンがありました。絶縁の経緯を知る藤田は、その写真を自分のブログにアップし、『ビックリしたかな』というコメントを付けています。まぁ、武は嫌々という感じでしたから、もちろん雪解けとまではいきませんが」(競馬ライター・兜志郎氏)
今も武がアドマイヤの勝負服を着ることがない事実が、両者の溝が依然として深いことを物語っている。
近藤氏ときわめて近い関係にある佐々木氏はこの事件以降、師匠の呪縛にとらわれることになる。
「不文律というか、近藤氏がダメ出しをし嫌っている騎手を乗せてしまうと、師匠への反抗になりかねません。師匠の意向は大きく、だから無理やり乗せるわけにはいかないんです。そりゃ、武に乗ってもらいたい気持ちは強く持っていると聞きますけどね」(前出・トラックマン)
どうしても乗せられないジレンマがあるというのだ。
「佐々木氏は騎手の起用に関しては、まったく口を挟まないようです。彼自身、勝負の世界でやってきて、餅は餅屋じゃないが、監督やコーチにあれこれ言われるのはわかるけど、オーナーに言われても‥‥という気持ちがわかるからではないでしょうか。佐々木氏のように金は出すけど口は出さないオーナーは好かれます」(前出・平松氏)
持ち馬の所属厩舎がよく依頼する騎手が乗るケースが多いことからも、それは想像できる。しかし‥‥と、厩舎関係者は苦笑するのだ。
「佐々木氏が2頭(マジンプロスパー、ヴァレンティーア)を預ける中尾秀正調教師は、近藤氏が紹介した経緯がある。中尾師自身は武と年齢が近いこともあり、武には好意的。もし何の制約もなければ武を乗せたいと思うでしょう。が、意向に沿わない騎手を乗せると『馬を引き揚げるぞ』と脅しめいたことを言う馬主がいるのも事実。厩舎としても、まだ佐々木氏より近藤氏のほうが大馬主であり、過去実績、恩恵も大きく、阪神馬主協会の前会長でもある。簡単に切るのは難しいわけです」
調教師の苦しい胸の内が伝わってくるようだ‥‥。