政治

歴代総理の胆力「福田赳夫」(1)「天がこの福田を要求するときが必ず来る」

 戦後の大蔵省(現・財務省)史をくくってみると、飛び切りの秀才はどうやらこの福田赳夫と宮澤喜一の二人となりそうだ。同省関係者で、それを否定する者もほとんどいない。

 その頭脳明晰な福田のトップリーダーへの道は、徹底した「王道」志向であった。政界入り後も、この世界が生き馬の目を抜く権力抗争の場であっても、権謀術策すなわち「覇道」への意欲を一切、持たなかったのが特徴的であった。言うならば、天下人としては、常に「待ち」が先行する“異色”と言えた。

 福田は、次官を目の前にした主計局長時代、「昭電疑獄」に連座して退官を余儀なくされ、昭和27(1952)年の総選挙に出馬、当選を果たした。

 大蔵省時代の福田は、昭和初期の高橋是清政権下で陸軍担当の主計官をやっているが、予算で軍部と激しく渡り合い、すでに度胸のよさも省内外に知れ渡っていたのだった。

 政界入り後は、これも商工省時代、稀代のキレ者、秀才と謳われた岸信介率いる岸派に入り、岸の信任厚く池田(勇人)政権下では自民党政調会長の重責に推されている。しかし、自ら「財政通」と認じ気骨では誰にも負けぬ福田は池田の経済・財政政策をよしとせず、このポストを捨てて「党風刷新連盟」を結成、同志とともに反池田勢力の立場を取った。岸が退陣したあとは岸派を継承、福田派を旗揚げしている。

 その池田が退陣、政権が岸信介の実弟である佐藤栄作に移ると佐藤に接近、佐藤派最高幹部の田中角栄ともども、福田派を率いる福田は「外様」的立ち位置で7年8カ月に及んだ佐藤長期政権を支えた。

 その佐藤は「沖縄返還」を花道に昭和47(1972)年6月、退陣表明、福田は7月の自民党総裁選で田中角栄との“宿命の対決”「角福戦争」に臨むことになる。ところが、「王道」志向を崩さぬ福田は、一敗地に塗(まみ)れることになったのである。

 敗因は、大きく二つあった。一つは、戦後から続く官僚出身者の政権に、世論はもとより自民党内にも批判が芽生えていたが、ここを甘く見たこと。二つは、佐藤が官僚出身の自分に政権の「禅譲」があるだろうとの期待感から、総裁選での支持勢力拡大に甘さがあったことだった。一方の田中が、支持勢力拡大戦略を描き、死力を尽くしての権力抗争に挑んでいるのとはあまりに対照的であった。

 総裁選は案の定、福田の負けである。その敗戦を受けての福田のセリフが、「天がこの福田を要求するときが必ず来る」という“嘆息”だった。

 勝った田中は、その後、不明瞭な女性・金脈問題から約2年で退陣を余儀なくされ、政権は自民党副総裁の椎名悦三郎による「裁定」によるものとなった。本来なら田中と争った福田に政権が回ってもおかしくなかったが、ここでも「王道」志向により、三木武夫に政権をさらわれた格好だった。

 その福田がようやく天下を取ったのは、三木政権が党内抗争にキリキリ舞いをさせられ、退陣せざるを得なかった昭和51(1976)年12月である。時に、福田71歳、いささか“遅すぎた総理の誕生”であった。

 福田内閣はその発足に際し、福田が初閣議で「(この内閣は)さあ働こう内閣だ」と号令したこともあり、ヤル気十分なスタートと言えた。ソ連(現・ロシア)との排他的経済水域(EEZ)200カイリ問題を解決、それまで動きのとれなかった成田国際空港をスタートさせ、そのうえで「日中平和友好条約」に調印、締結を果たしたなどである。

 ちなみに、福田は長く“台湾派”とされていたが、佐藤内閣後期の外務大臣時代、密かに中国とパイプを佐藤派の実力者・保利茂の力を借り、「保利書簡」を中国に送るなどで、政権を取ったあとの中国との交流への意欲も窺えたのだった。

■福田赳夫の略歴

明治38(1905)年1月14日、群馬県生まれ。大蔵省入省。「昭電疑獄」に連座して退官。昭和27(1952)年10月、無所属で衆議院議員初当選。昭和51(1976)年12月、福田内閣組織。総理就任時71歳。退陣は、総裁選予備選で敗れたため。平成7(1995)年7月5日、90歳で死去。

総理大臣歴:第67代 1976年12月24日~1978年12月7日

小林吉弥(こばやし・きちや)政治評論家。昭和16年(1941)8月26日、東京都生まれ。永田町取材歴50年を通じて抜群の確度を誇る政局分析や選挙分析には定評がある。田中角栄人物研究の第一人者で、著書多数。

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