先発陣には及第点を出した大野氏だが、目下、広島の悩みの種は絶対的な「セットアッパー」の不在だろう。前半戦最終戦となった7月17日の対中日戦は、野村謙二郎監督が「方程式の崩壊」と嘆く試合展開となった。
「完璧な勝ちパターンでした。7回をしっかり抑えた先発・バリントンのあと、誰が継投するかが注目でした。2対0とリードしている状況では本来、ここで今村猛(22)が登板するタイミング。ところが、前日の救援失敗があり、監督に不安や迷いが生じたのでしょう。中継ぎの2番手に久本祐一(34)が登板。満塁としてしまい、代わった横山竜士(37)が逆転本塁打を浴びて、連日の逆転負けとなった。やはり、こうした場面では、前日の失敗を踏まえても、今村を粘り強く使うのが良策だったかもしれません」
前日の16日の対中日戦では、8回から登板した今村が同点打を浴び1イニングで降板。最終回に、ミコライオが逆転を許す犠打で敗戦を喫していた。
それだけに安全策をとった采配と言えるが、大野氏によれば、混迷する3位争い、ひいてはCSという短期決戦を勝ち抜くうえで、チームの軸となるセットアッパーを粘り強く起用することが不可欠だというのだ。
「CSに出るための絶対条件は、セットアッパーが自信を持つことです。WBCの日本代表にも選ばれた今村の今季の成績(登板35試合、1勝2敗2セーブ、15ホールド)は、彼本来の実力ではありません。今シーズンに限って言えば、1~2イニング抑えれば勝てる状況での逆転負けが非常に多く、彼の不調がチームの成績にも誤算を与えています。後半戦、今村が復活すれば方程式も復活し、勝ち星も上がってきます。一刻も早く自信を取り戻してほしいですし、そのためには登板の機会を与えたほうがいいでしょう」
一方、ここにきて光明が見えつつあるのが、「守護神」永川勝浩(32)の復活の兆しだ。最後の優勝となった91年に26セーブで最優秀投手に輝き、“抑え”の重要性について身をもって体験した大野氏は、後半戦の活躍に太鼓判を押す。
「永川はカープの歴代クローザーの中でトップの164セーブを残しています。過去3年、何もできていない悔しさの中、投球スタイルや球種を変えながら、今年はオープン戦で結果を残しました。さあこれからだ、という時にケガで戦列を外れてしまいましたが、前半戦最後の試合では変化球の使い方もうまく、さきざきに期待を持たせてくれました。まだまだ後半戦に向けて、もう一花も二花も咲かせてくれるんじゃないでしょうか」
また、右腕が主体の先発陣において、昨年まで3年間、投手コーチを務めた大野氏は「左の先発を育てられなかったことが大きな反省点」と振り語る。中でも通算17勝の篠田純平(28)と、同19勝の齊藤悠葵(26)の2人の活躍に期待を寄せる。
「私自身が左(投手)だったということだけではなく、右の先発しかいないとなると、相手チームは打線を組みやすくなります。その点で期待していたのが、篠田と齊藤ですが、今季は一軍からお呼びがかかりません。もともとコントロールと制球でバッターを打ち取る技巧派タイプだけに、もっと活躍して先発の5、6番手となってほしいですね。他にも同じ左の中村恭平(24)=1勝3敗=は4月の中日戦でプロ初勝利をあげましたが、150キロのストレートを投げるものの、気持ちが優しく、それがマウンドで出てしまうこともあり、相手への威圧感が感じられないのが難点。『闘争心を見せてくれ』とコーチ時代に何度か話しました。戸田隆矢(20)=0勝1敗=ともども、まだまだ今後成長する選手だと思います」
広島ファンにとっては、まさに「わが意を得たり」と言える大野氏の言葉ではないだろうか。