「お前は、2000万くらいは貯金あるのか?」
1年程前、番組打ち合わせを終え、殿、番組スタッフら数名と食事をしながら、「いったい、老後はいくらあれば安心して過ごせるのか?」といった雑談を交わしていると、殿はかなり唐突に、末席に座っていたわたくしに向け、冒頭の質問を投げかけてきたのです。
もちろん咄嗟に、「2000万なんてそんな大金持ってませんよ。殿、よっぽどの勝ち組とかじゃない限り、なかなか普通の人は2000万なんて貯金ありませんよ」と、実に真っ当な経済観念をお伝えすると、「そうか~」と、殿は腑に落ちない感じで、気の抜けた返事を返したのです。
浮き沈みの恐ろしく激しい芸能の世界で40年近くにわたり毎年、当たり前のように“かつて例のない圧倒的高額納税者”として仕事をこなしてきた、ある意味、浮世離れした殿からすれば、2000万円という数字はもしかしたら、それほど大きな数字に感じないのではないのでしょうか? 実際、〈ビートたけしって、今までいったいいかほど稼いできたのだろうか?〉と、下品なのを承知で、ついつい師匠の生涯労働賃金について、改めて思いを馳せてしまいます。
で、殿の“経済浮世離れ発言”といえば、他にもあります。
10年程前、日本のプロ野球選手のメジャー移籍が決まり、かなりの大型契約を勝ち取ったニュースをみんなで見ていた時、殿はポツリと、
「これで大型なら、俺ももう随分長いこと、結構な大型契約だけどな」
と、冗談半分、本気半分といった感じでサラリと漏らしたのです。
確かに、野球選手が現役で稼げる年数はざっと15年程。それに比べて殿は、すでに2.5倍以上現役で稼ぎ続け、それは今も思いっきり絶賛継続中なわけです。しつこいようですが、本当に〈ビートたけしって、いったいいくら稼ぐのよ!〉です。はい。
最後に、殿の経済浮世離れ発言シリーズ(勝手にシリーズとさせていただきました)で、もっとも印象深い発言といえば、かつて浅草キッドのおふたりに「パソコンを買ってきてくれ」といった意味を伝えようとして言い放った「おい、インターネット買ってこい!」に尽きます。
そんな殿の発言にキッドのおふたりは即座に「殿、インターネットはビル・ゲイツでも買えません!」と、ツッコミを入れたそうです。要は“どれほどの資産家であっても、さすがにインターネットを買い占めることは不可能です!”といったツッコミです。もちろん、これは単なる殿の伝え方の間違いというエピソードです。が、経済とITにめっぽう疎いわたくしは、インターネットは無理でも、どこかのまだあまり資産価値の付いてない“これからのSNS系の会社”の権利ぐらいなら、殿でしたら、買って買えないことはないのでは? などと、やはり下衆な想像をしてしまう、わたくしだったりします。
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◆プロフィール アル北郷(ある・きたごう) 95年、ビートたけしに弟子入り。08年、「アキレスと亀」にて「東スポ映画大賞新人賞」受賞。現在、TBS系「新・情報7daysニュースキャスター」ブレーンなど多方面で活躍中。本連載の単行本「たけし金言集~あるいは資料として現代北野武秘語録」も絶賛発売中!