この問題を別の角度から分析するのは、高崎経済大学の八木秀次教授だ。
「この騒動には最初から違和感を持っていました。そもそも『はだしのゲン』は学校図書、特に小学校の図書室に置く本としてふさわしいのかについて論議すべき。それが『表現の自由』などと言って一般の図書としていいか悪いかの問題にすり替えられてしまった」
八木氏は、この騒動を連日報じた朝日新聞にホコ先を向ける。
「朝日は最初『この漫画は原爆の悲惨さを訴えているのになぜ閲覧制限するのか』という趣旨の記事だった。で、広島など被爆地も含め多くの人が閲覧制限をした松江市の教育委員会の判断を間違いだとする論調が生まれた。結果、圧力に耐え切れず教委が降参した形ですが、翌日の朝日の記事に、初めて教委が問題にした日本兵による残虐行為の漫画の描写を出し始めた。最初からこれを掲載していたら論調はかなり違ったものになったはずですよ」
八木氏は大新聞による“偏向報道”ぶりを批判したうえで、漫画で描かれた日本軍による蛮行も事実誤認だと主張する。
「これまでに妊婦の腹を割いて胎児を出すなんて事件は日本にありましたか? よく中国では日本兵が頭の皮を剥いだなどと抗議しますが、頭の皮を『剥ぐ』なんて技術を持った日本兵がいるとは思えない。人を殺すことも“文化”と考えれば、日本の殺人文化にはない方法です。かつて中国人が日本人にしたことを、日本軍がやったと話をすり替えているにすぎない」
さらに、天皇批判についてはこう反論する。
「原爆投下自体が『国際法違反』ですから、責めるべきはアメリカです。むしろ戦争を始めるにあたり、形式的な責任者だった天皇を批判するのは、君主制を打倒するという共産党の主義主張そのものです」
そしてこの問題の本質についてこう締めくくった。
「そもそも学校には学習指導要領という法的拘束力のあるものがあり、学校はこれに沿った指導をしなければならない機関なんです。ところが、図書室の本、または副教材については指導要領に合致しているかどうかが問題視されてこなかった。今後、学校図書の点検ということになれば今回のケースが大きな問題提起になったとも言えます」
そして、その場合、特に留意すべきは性的な記述についてだという。
「特に絵が衝撃的だから小学生が読むには早すぎる。女性器の中に一升瓶を突き刺すなど過激な描写だけが印象に残ってしまう可能性がある」(前出・蜷川氏)
また、前出・木村氏もこう主張する。
「副読本として児童に見せるとするなら、学校の先生はこうした自虐史観の考えもあるが、同時に日本人として誇りを持てる自尊史観の本も読ませるようなバランスが必要なはずです」
そもそも小中学校の図書室に「はだしのゲン」の漫画本だけが常備されてきたことが問題だ、と言うのだ。