「ゲンが帰ってきた」──8月30日付の朝日新聞は、こんな見出しで、松江市内の中学生が図書室で「はだしのゲン」を読む姿を報じた。騒動勃発から半月足らずで「閲覧制限」が180度ひるがえる鎮火劇に、各界識者が異論、反論の口火を切った。くすぶる残り火は再び炎上する勢いなのだ。
このあっけない幕切れにまず、右翼・民族派サイドから次々と異を唱える声が上がった。
「二十一世紀書院」代表の蜷川正大氏が言う。
「『はだしのゲン』は少年誌から連載を外れた後半になるほど左翼思想が前面に出てきている。作者の中沢氏は『原爆が終戦を早めた』と、被害にあったことを“肯定”している人なだけに、我々には反日漫画というイメージが定着しています」
蜷川氏が問題視するのは日本兵がアジア諸国で惨殺を行ったとする描写だ。
「確かに戦争という異常な状態ですから一部では残忍なことはあったかもしれない。が、それが日中戦争の全てかと言えばそうではないはず。なのに、この漫画では日本軍がそうした残虐行為を推し進めていたかのように描かれているのが問題なんです」
さらに、こうした表現を受け取る読者が小学生であることも案じる。
「分別ある大人であれば、どんな意図を持って描かれた作品かわかるだろうが、小学生に読ませて正しい日本の歴史観、国家観が判断できるかどうか疑問ですよ。この漫画はほとんどの小学校に置いてあるようですが、誰が見ても極端に左寄りの漫画を読ませるのは『思想教育』が目的だと言っても過言ではないでしょう」
この意見に同調するのが、「一水会」代表の木村三浩氏だ。
「政治的、思想的な中身が色濃いだけでなく、この漫画には日本が侵略戦争をしたから原爆を落とされたなどという自虐的史観が植え付けられている。これは『はだしのゲン』が少年誌のあと、共産党系機関誌で連載されたことが大きく影響している。『アジアの各国で約3000万人以上の人を残酷に殺す』などの記述は江沢民による誇張された内容を盛り込んだもので、(共産党系機関誌の)読者に迎合していると言わざるをえない」
木村氏が最も嫌悪感を覚えたのが、この漫画にたびたび出現する天皇を「犯罪人」呼ばわりして指弾する部分だ。
「でも実際、陛下は、法的・政治的に責任はなくても『ご巡幸』をされ、日本もそのことで頑張ってこれた側面もある。もっとも、こうした自虐史観を信じて活動していた人も冷戦崩壊で寄る辺がなくなった。単に恨み節だけで陛下を戦犯扱いするのはあまりに一方的だったということです」
木村氏は、表現の自由は遵守されるべきとしながらもこう言う。
「表現そのものに一方的な毒性のある漫画を、児童に対する警鐘も何も添えられていない状態で図書室に放置してあったという意味では、今回の教育委員会の判断は理解できるものだ」
ところが結果は、「覆水盆に返って」しまった‥‥。
◆アサヒ芸能9/3発売(9/12号)より