「お前、来週後半あたり空いてる? ちょっとまた宴会やるからよ。電話するわ。1日前に電話しても大丈夫か?」
去年の夏、殿よりこんな趣旨の誘いを受け、殿からの電話を首を長くして待っていたことがありました。
で、この“殿邸でのミニ宴会”は、ここ5年程の間に年3回程のペースで開催されていて、うれしいことに、いつの間にかすっかり定番となっています。もちろんわたくしはこのミニ宴会をいつだって心待ちにしており、常に〈殿、いつだって空いております。ぜひお誘いください〉といった物欲しそうな顔付きで、殿の周りをうろちょろとしています。
そんなわたくしの思いが伝わっているのか、殿はしっかりと、
「おい、そろそろお前ら(わたくしを含めた『T.N.ゴン』に所属する弟子2名のこと)を呼んで、いつもの宴会やらなきゃな」
「おい、そうだ。また俺ん家に酒飲み来るか?」
等々“弟子が楽しみにしてるから、とりあえずやっとくか”といった感じで、確実に宴を開いてくれます。
で、冒頭に紹介した殿からの「1日前に電話しても大丈夫か?」との問いに対し、「殿、1時間前でも大丈夫です。なんなら15分前でも問題ありません!」と、例によって〈いつだって殿と飲みたくてうずうずしております〉といった心の叫びをアピールすると、殿は「ぷはっ!」と一度軽く吹き出したあと「とにかく電話するわ」と続けたのです。
が、その週は殿からの電話はなく、週末に殿にお会いすると“電話しなくて悪かったな”といった感じで、
「今週、ちょっと他の宴会が立て続けて入っちまったからよ。お前らとは来週だな」
と、実にていねいに宴会延期の理由を伝えてくれたのです。
殿は、約束していたものが延期になったり、時に中止になったりすると、必ずといっていいほど、弟子に対しても気を遣い、その理由を説明してくれます。
そんな殿の気遣いを受けるたびに、何かとずうずうしいわたくしでも、何だか申し訳ない気持ちになり、さすがに恐縮してしまいます。恐縮といえば18年程前、わたくしが殿の付き人をしていた頃、高田文夫先生が主催するイベントに殿が出ることになり、かなり大きな会場の、かなりたくさんのお客の前で、実に久しぶりに高田先生とトークをするといった仕事がありました。この時、出番前の殿は、“客前はいつだって緊張する”という持論どおり、タバコを早いスパンで吸いながら、わたくしが手に持つ紙コップの中のお茶を、タバコと交互にせわしなく口に運んでいたのですが、紙コップを渡すたびに「おっ、サンキューな」と、何度もこちらにお礼を言ってきました。
子供の頃から心惹かれ、夢中になったあこがれの人に、弟子として当然の仕事をしただけでお礼なんて言われたら、どんなバカでも、それはもう圧倒的恐縮以外ありません。はい。
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◆プロフィール アル北郷(ある・きたごう) 95年、ビートたけしに弟子入り。08年、「アキレスと亀」にて「東スポ映画大賞新人賞」受賞。現在、TBS系「新・情報7daysニュースキャスター」ブレーンなど多方面で活躍中。本連載の単行本「たけし金言集~あるいは資料として現代北野武秘語録」も絶賛発売中!