振り返れば過去3度、あと一歩で涙を飲んだ事例がある。いずれも外国人選手だったこと、そして四球攻めが行われたことから、そこに「記録死守」の強い意思が介在したとも言われる。「聖域超えの壁」はいかにして立ちはだかったのか。当事者が闇の真実を明かす。
「投手ミーティングで『絶対にバースには打たれるな』と言われたんですよ。監督の王さんは『敬遠しろ』とは言えないですから、その空気を察して投手陣が自主的に敬遠したんです」
爆弾発言が飛び出したのは、8月31日のスポーツ情報番組「S☆1」(TBS系)。出演した槙原寛己氏が、85年の阪神のバースへの四球攻めの舞台裏をバラしたのだ。
チームがすでに21年ぶりのリーグ優勝を決め、54本塁打を放っていたバースは、消化試合となった残り2試合で記録に挑んだ。王貞治監督率いる巨人との2連戦である。1戦目の先発・江川卓は抑えられる自信から3打席真っ向勝負を挑み、本塁打を阻止(詳しくは9/17,18配信の「掛布雅之「バックスクリーン直撃談」特別編」にて)。問題は翌日の最終戦だった。
先発の斎藤雅樹はバースの1、2打席でストレートの四球を与える。外角に大きく外れる、明らかな「本塁打阻止策」だった。しびれを切らしたバースは3打席目、外角高めのボール球に無理やり手を出し、左前安打を放つ。だがその後、斎藤から代わった宮本和知、橋本敬司も四球を連発。バースは54本のままペナントレースを終えた。
槙原氏のコメントは、それが堀内恒夫投手コーチの「指示」だったと明かしたものである。
実は王監督は試合前、報道陣に「まさか敬遠するんじゃないですよね」と聞かれ、「するわけないだろ。そんなことをしてまで記録を守って、何の意味があるんだ」と答えている。その発言はウソだったのか──。
「王監督はミーティングの存在を知らなかった。あれは堀内コーチの画策ではなく読売グループの意向であり、指令でした。『グループ首脳が、王さんの記録を破られないようにと言っている』と、グループ関係者を通じて堀内コーチに伝えられたと聞いています」(スポーツ紙デスク)
周囲が一体となって気を遣った結果が四球攻めでの記録阻止だったというのだ。バースは記録に挑む前、「俺はオーの記録を破れない。それは俺がガイジンだからだ」とコメントしているが、結果的にそれが、記録保持者たる王監督のもとで実践されたことになる。
当時、巨人に在籍したカムストックはのちにみずからの著書でこの時のことを暴露し、
〈ある投手コーチから、バースにストライクを投げた場合、1球につき1000ドルの罰金が科せられた〉
と振り返っている。当時のレートで約20万円だ。
一方で前出のデスクは、
「後日、斎藤が『ホントにストライクが入らなかったんだ。ビビッちゃって』と漏らしたとの話もありますが、本当かどうか‥‥」
紳士たる巨人軍と「世界の王」の一つの「汚点」として、野球ファンの記憶に残っていることは間違いないだろう。