好景気の中で幕を開けた平成。バブルがはじけ、長い景気低迷を迎えた。その時代を反映するように、銀幕の世界でもスタイリッシュから退廃的へと艶っぽさの表現は移り変わっていく。それが如実に表れたのは百合ラブシーンだった─。
平成初期を代表するレズシーンを見せたのは「誘惑者」(89年、ヘラルド・エース/日本ヘラルド)。秋吉久美子と原田貴和子という豪華女優2人が百合共演したのだ。おたがいの体を密着させながら唇を吸い合う貪欲さたるや、その後の男女の営みをも想起させた。それほど「前戯キス」で、2人の姿は圧巻だった。
そんな中、百合映画の頂点とも言うべき映画が誕生する。「ナチュラルウーマン」(94年、ケイエスエス)だ。女優のベッドシーン事情に詳しい映画ライターの松井修氏をして「日本映画史上最高」の百合映画であり、「リアルなLGBTドラマ」と言わしめるほどの作品なのだ。
女3人の三角関係を描いた物語だが、緒川たまきと嶋村かおりのカラミ合いが、この作品の真骨頂だろう。
嶋村に覆いかぶさり、ピチャピチャと音を立てながら強引に唇を奪う。そしてバストへと唇をはわせるなど終始、緒川が積極的に責めていく。特に観客の下半身をうずかせたのは、半分脱いだ姿の緒川がベッドにあおむけになった嶋村の美脚を責めるシーン。ベッド上に座る嶋村のバストを足指でゆっくりと愛撫していくのだ。緒川の寝てもハリのあるバストだけではなく、なんともサディスティックな緒川にはドギモを抜かれた。松井氏によれば、人気モデルから映画デビューした緒川が、当時のグラドル、嶋村を無理やり“百合の世界”に引き込む「強烈なキャラクター」を演じたと指摘する。また、現在まで緒川の美バストは、「この作品でしか拝めません」とも付け加える。
その後も日本映画界は数々の百合作品を世に送り出す。「アタシはジュース」(96年、東北新社)の秋本奈緒美と小沢なつきに至っては、松井氏もまるで艶ビデオのようだと評するほどハードなベッドシーンを展開した。松井氏によれば「過激な性描写に挑戦したシリーズの一つ」で、2人とも脱いだ姿を見せたといい、「うつ伏せの秋本を小沢が上からマッサージするうちに」抱き合い、激しい百合ベッドシーンをを演じるのだという。
形のいいバストをこすりつけ合うさまは、挿入のない底なしの情交そのものだ。
さらにブッ飛んでいたのは「目を閉じて抱いて」(96年、東北新社)。主演の武田久美子は両性具有という役どころ。そのため、男とも女ともカラミ合い、果ては複数プレイまで…アブノーマルの応酬は、実に退廃的な雰囲気を醸し出していた。
近年、日本を代表する演技派女優の満島ひかりと安藤サクラが禁断のシーンに挑んだのが「愛のむきだし」(08年、ファントム・フィルム)だ。愛情に飢えた青年が父親とのつながりを失わないために「盗み撮りのプロ」になるという実話に基づく物語。そうした中、安藤の求めに応じて、満島は百合の世界へ。舌先を出すと、安藤が吸いついて甘がみ。瞬間、満島は体を引きつらせる。さらに、ベッドシーンでもディープキス。スカートをめくられ、純白のアンダーウエア越しに「手での愛撫」寸前まで責められるのだった。
平成末期から令和にかけてもレズ作品は異彩を放った。土屋太鳳と芳根京子がW主演した「累-かさね-」(18年、東宝)ではキスを連発。同じく、若手実力派である小松菜奈と門脇麦による「さよならくちびる」(19年、ギャガ)では、青春の淡い恋心が描かれ、小松が「壁ドン」のごとく門脇の唇を奪うシーンがある。
「最近の女子高生は、じゃれ合いの延長でキスをしたりするようですが、この作品からはそういったリアリティを感じます」と話す映画評論家の秋本鉄次氏は、2人の“百合行為”について
「非日常ではない…と思って見ると、グッといやらしく映えます」(秋本氏)
先輩女優が見せてきた特濃シーンを、若手たちが抜き去り、「本気の百合ベッドシーン」を演じる日は近づいている。