放射性物質を浴びた福島県内で、町の「再生」を目指して、除染作業が行われている。そんな中で、ある除染作業員が目を疑う光景を目撃していた──。
「えっ、何しているんだろう? 側溝に流したらヤバいんじゃないの‥‥」
目前の光景をいまだに信じられないまま、当時を振り返るのは、昨年から福島県の楢葉町で除染作業員として働く20代後半のA氏。
楢葉町といえば、東京電力福島第一原子力発電所の過酷事故後、警戒区域に指定されていた。その指定も8月10日に解除され、避難指示解除準備区域として除染作業が進められている。
作業では放射性物質を含んだ土や草、落ち葉や枝などの除染廃棄物を、「フレキシブルコンテナ(フレコン)バッグ」と呼ばれる袋に、圧縮して詰め込んでいく。それを「仮置場」に運んで、積み重ねて保管している。
「楢葉町には、仮置場が点在していて、一つのエリアごとに数千個のフレコンバッグが集められています。雨が降るとフレコンバッグにしみて、除染廃棄物から汚染水が漏れてくるので、地中に埋まった集水タンクにたまる仕組みになっています」(前出・A氏=198ページの図を参照)
集水タンクの大きさは2リューベ(2立方メートル=2000リットル)ほどで、雨が続けばすぐにいっぱいになる。汚染水の処理を任された除染作業員たちの班は、バキューム車で吸い取り、大谷地区の仮置場にある濁水処理設備まで運ぶという。
A氏が目撃した「側溝に流されていた水」は、ふだんはその濁水処理施設に運ばれるはずのものだったのだ──。
仮置場に集積されている除染廃棄物の放射線量とは、どの程度なのだろうか。除染・汚染水処理に詳しい、NPO法人「再生舎」の環境技術アドバイザー・細渕慈貴氏が解説する。
「私たちが福島県本宮市のプールなどで除染作業をした時、フレコンバッグに詰めた除染廃棄物の放射線量は、10マイクロシーベルト前後でした。フレコンバッグは耐久性が低いので、仮置場に積んでいる状態でも劣化して破れやすく、放射性物質を含んだ汚染水がしみ出してくる状態になっています」
そして、この楢葉町の仮置場で、A氏は冒頭の「タレ流し」現場を目撃することになった。
「今年9月中旬頃、楢葉町の除染廃棄物の回収工程が終わりました。作業は仕上げに移り、フレコンバッグの上に遮水シートをかけて、各仮置場の集水タンクの汚染水を回収していくことになりました。ただ、作業員たちの間では、処理する集水タンクの量が多すぎて、大谷地区の濁水処理施設だけで処理が間に合うのか心配の声が上がっていました」(前出・A氏)
その懸念は現実のものになった。A氏が話を続ける。
「ある仮置場で作業をしていた時、見たことのない作業員が数人いました。彼らは地中の集水タンクからポンプで、汚染水をフェンス外の側溝に勢いよく放出させたのです」