写真には発電機と、集水タンクの黒い筒状の取水口から伸びる青いホースが見える。汚染水で膨らんだホースは、フェンス外の側溝へと向かう。
別の写真では、ヘルメットをかぶり防塵マスクをした作業員が、放流作業のあとに、ホースを片づけている様子が収められている。
「他の作業員たちと別行動を見せた彼らの存在は、私だけではなく、いくつか別の仮置場でも目撃されていて話題になりました。しかし、独断で側溝に流していたとは考えにくく、雇い主の指示で行動したのかもしれません」(A氏)
タンクの水を減らし、作業の手間を省くのが狙いだったのか‥‥。今となっては、除染作業を任された下請け会社が何十社とある中で、彼らが何者だったのかわからないままだという。
それにしても気がかりなのは、何の処理もされず側溝に流された汚染水だ。前出の細渕氏が語る。
「南相馬市の仮置場では、ある企業が除染作業の時に、散水車で路面の泥を流していました。近くにため池があり、流れた水が流れ込んで線量が上がるので、回収して処理するべきだと注意したのですが、そのまま作業を続け、その後、ため池の線量が上がったことが発覚しました。福島はため池農業をしているところが多く、楢葉町の側溝に流した汚染水も、農業用のため池に流れ込んだ可能性があります」
今回の“汚染水タレ流し”の件について本誌の取材に、福島県内の除染作業を推進する福島環境再生事務所の担当者はこう答えた。
「集水タンクに集めたものは水質検査をその場で行って、セシウムが基準値以下であれば側溝に放流します。濁水処理施設を使う場合は、セシウムの基準値が(廃棄物関係の)ガイドライン以上であれば、処理を行っております」
だが、A氏はこの回答に真っ向から反論する。
「今まで除染作業員として働いてきた中で、集水タンクの放射線量を測っている姿は一度も見たことがありません。バキューム車で汚染水を回収している班の人たちも、毎回、大谷地区の濁水処理施設に運んでいて、側溝に放流するなんて話は聞いたことがないです」
除染作業の汚染水の問題では今年1月、福島市が行っている住宅の屋根や駐車場の高圧洗浄で出た汚染水が、そのまま側溝などに流されていると朝日新聞が報じて、ズサンな作業の実態が浮き彫りになった。
今回の件も類似したケースの可能性があると指摘するのは、放射線防護学が専門の日本大学准教授・野口邦和氏だ。
「現場の作業員たちが放射線量を測っている姿を見ていなければ、本当に測っていたのか疑問です。線量を測らずに放流していたら、朝日新聞の件と同じく“手抜き除染”だし、法令違反の可能性もあるでしょう。除染作業はまだまだ時間がかかるもの。除染に対する信頼を損なわず、町を再生していってほしいです」
汚された大地の前で、“手抜き”だけはしてほしくない。