開幕25連勝を果たし“不敗伝説”を続ける楽天のエース田中将大。だが、今シーズンの開幕直前に開催されたWBCではふがいない結果に終わり、スランプ説も流れたほどだった。しかしその呪縛を解いたのは、ダルビッシュとの極秘会食で開眼した“体幹改造”の成果だったのだ。
ロッテとのクライマックスシリーズ初戦に勝利した田中将大は、0対0の均衡を破る銀次の本塁打について聞かれ、新設された特設スタンドまでギッシリと埋まった満員のスタンドに向かって、「じぇじぇじぇ」と、朝の連続テレビ小説の決まり文句を叫んでファンを笑わせた。
9年目の初優勝に沸く本拠地・仙台でのクライマックス初戦を前に、星野仙一監督は、田中とバッテリーを組む嶋基宏に「相手は勢いに乗って初球から振ってくる。初球の入り方に気をつけてくれ」と言っていた。
第1ステージの西武戦でエース・岸孝之を打ち砕いたロッテ打線。その時もファーストストライク狙いのバッティングだった。ロッテの立花義家一軍打撃コーチも「田中に追い込まれたら苦しくなるので、早いカウントで振っていきたい」と攻略法を語っていた。
その光景をテレビで見ていた嶋には、ロッテの田中攻略法はお見通しだった。
「今季の将大はこちらが何を求めているのかわかったうえで、投げてきてくれる。だから受けていて楽しい。この試合(対ロッテ戦)も『簡単にストライクを取りにいかないように』とだけ言いました。田中も『井口(資仁)さんの第1打席が大事ですね』とわかっていた」
事実、今季11打数4安打(3割8分2厘)と打たれている井口に対しても、4打席とも初球は変化球で入り、まったくバッティングをさせなかった。バッテリーの意図どおりの勝利は、楽天にとって初の日本シリーズ進出に向けた貴重な勝利につながった。
開幕からの25連勝──。誰がこの成績を予想していただろうか。
「投手をリードする基本はその日のいちばんいい球を中心に組み立てることですから、将大だけでなく、投手とはいろいろと話しています」
こう語る嶋は、投手陣の中心になっている小山伸一郎と行動を共にすることが多いが、時には田中も含めて一緒に食事をすることもあるという。そんな日常での些細な会話から投手の気持ちを理解しようとしていた。17日のロッテ戦でスライダー中心の組み立てで完封勝利したのも、田中が「久しぶりにスライダーがキレていた」と自画自賛する調子のよさ以上に、バッテリー間の呼吸がまったくブレていないことが大きかった。
◆スポーツライター 永谷 脩
◆10/22発売(10/31号)より