スポーツ

楽天田中将大と嶋基宏「黄金コンビ」苦闘7年物語(8)成長する田中が見いだした新境地

 帰国した田中にナインたちは、シーズンに向けて切り換えるよう促した。

「こういう時は妙な慰めよりもいいと思って‥‥」

 と嶋は言う。その代わり、開幕までのわずかな時間、田中がブルペンに入る時は黙って嶋がボールを受け続けた。

 帰国してからの田中の目つきは少しずつ変わってきた。WBCでの反省もあったのかもしれない。他の投手たちの調整を見て自分へのルーティン(習慣)の中に生かせるものを探したのかもしれない。この時期の田中の様子について佐藤は、ダルビッシュが急成長した時とよく似ていると語る。

「なかなか思うように勝てなくて、八木(智哉=現オリックス=)が連勝するのを見て、こっちが何も言わなくてもトレーニングを自分からしていた。WBCから戻ってきてからの田中にも同じものを感じる。前田の存在も大きかったのかもしれない」

 田中は以前、夫人同士がつきあいのある関係で、ソフトバンクの斉藤和巳と食事をする機会があった。その時、「エースとは?」という質問に「負けないのがエース」と斉藤は答えたという。そして「僕の連勝記録などすぐ抜いてほしい。その時に見えてくるものがあるから、一緒に話せると思う」と続けたという。

「エースというのは優勝のために投げる」と高校時代から教わってきた田中にとって、「負けないのがエース」という言葉は胸に刺さるものがあった。

 負けないためのピッチングとは何か。かつて語った江川卓の言葉が、田中の気持ちを代弁しているに違いない。

「相手が0点で抑えれば0点、8点取ってくれたら、7点まで許しても勝てる。何が何でも三振を取りにいって0点に抑えればいいというものではない。それは自己満足にすぎない。最後の最後では、お客さんに喜んでもらえる余力も必要」

 開幕に向けてチームもいろいろと配慮した。開幕投手の座を新人・則本昴大に譲り、本拠地開幕となるKスタ宮城での第4戦目となるオリックス戦での登板となった。「地元での準備をきちんとしてくれ」という監督の粋な計らいであると同時に、若い則本が好投すれば、いやが上にも田中の負けじ魂に火がつくだろうという思惑があったのだろう。

 そして迎えた4月2日の地元開幕戦、マウンドに立った田中は7回5安打1失点のピッチングに、「点を取ってもらったあとすぐに四球から失点をしたのはいただけないですね」と照れくさそうに答えていたが、この時、田中の投球の意図をしっかり読み取っている男がいた。帰国後、ずっと田中の球を受け続けている嶋だった。そしてポツリと言ったのは「将大、わざとボール(球)を投げている」だった。そして、この時から田中の「神様」稲尾超えの伝説が始まった。

◆スポーツライター 永谷 脩

カテゴリー: スポーツ   タグ: , , , ,   この投稿のパーマリンク

SPECIAL

アサ芸チョイス:

    なぜここまで差がついた!? V6・井ノ原快彦がTOKIO・国分太一に下剋上!

    33788

    昨年末のスポーツニュース番組「すぽると!」(フジテレビ系)降板に続いて、朝の情報番組「いっぷく!」(TBS系)も打ち切り決定となったTOKIOの国分太一。今月30日からは同枠で「白熱ライブ ビビット」の総合司会を務めることになり、心機一転再…

    カテゴリー: 芸能|タグ: , , , , |

    医者のはなしがよくわかる“診察室のツボ”<寒暖差アレルギー>花粉症との違いは?自律神経の乱れが原因

    332686

    風邪でもないのに、くしゃみ、鼻水が出る‥‥それは花粉症ではなく「寒暖差アレルギー」かもしれない。これは約7度以上の気温差が刺激となって引き起こされるアレルギー症状。「アレルギー」の名は付くが、花粉やハウスダスト、食品など特定のアレルゲンが引…

    カテゴリー: 社会|タグ: , , , , , |

    医者のはなしがよくわかる“診察室のツボ”<花粉症>効果が出るのは1~2週間後 早めにステロイド点鼻薬を!

    332096

    花粉の季節が近づいてきた。今年のスギ・ヒノキ花粉の飛散量は全国的に要注意レベルとなることが予測されている。「花粉症」は、花粉の飛散が本格的に始まる前に対策を打ち、症状の緩和に努めることがポイントだ。というのも、薬の効果が出始めるまでには一定…

    カテゴリー: 社会|タグ: , , , , |

注目キーワード

人気記事

1
上原浩治の言う通りだった!「佐々木朗希メジャーではダメ」な大荒れ投球と降板後の態度
2
フジテレビ第三者委員会の「ヒアリングを拒否」した「中居正広と懇意のタレントU氏」の素性
3
3連覇どころかまさかのJ2転落が!ヴィッセル神戸の「目玉補強失敗」悲しい舞台裏
4
巨人「甲斐拓也にあって大城卓三にないもの」高木豊がズバリ指摘した「投手へのリアクション」
5
ミャンマー震源から1000キロのバンコクで「高層ビル倒壊」どのタワマンが崩れるかは運次第という「長周期地震動」