日本人の新規患者が年間100万人を数え、38万人もの患者が死亡するといわれるガン。中でも患者数が著しく増加しているのが前立腺ガンだ。
その理由には、高齢化や食生活の欧米化以外に、PSA(前立腺特異抗原)検査の普及が挙げられる。かつては見つからなかった早期の前立腺ガンがこの検査によって、どんどん見つかるようになっているのだ。
PSAは前立腺から分泌されるたんぱく質を指す。検査は、このPSAが血液中にどれだけ存在するかを測定する。健常男性の場合のPSAは、前立腺から精液中に分泌され、血液中に浸出することはほとんどない。しかし、前立腺に疾患があると、血液中にPSAが浸出し、数値が上昇することが多いため、早期発見が可能となったのだ。
前立腺ガンは、前立腺の細胞が無秩序に自己増殖することによって発生する。初期であれば臨床症状も認められず、非常に進行がゆっくりで、その過程で寿命を迎える人も少なくない。そのため、他の病気が原因で死亡した男性を調べた結果、前立腺ガンだったことがわかるケースもある。これを「前立腺ラテントガン」という。
PSA検査がたくさん見つけているのは、まさにこの「ラテントガン」だと考えられている。
前立腺ガンの危険因子は、加齢、遺伝、肥満、カルシウムの過剰摂取などが挙げられる。予防は、十分な睡眠、バランスのいい食事、禁煙、ストレスをためないこと、適度な運動など、どれも一般的なことばかりだ。
ただし、前立腺ガンの場合、初期の頃は、自覚症状がほとんどないが、尿が出にくい、排尿の回数が多いなどの症状が出る場合もある。進行すると血尿や、骨への転移から腰痛の症状が出る場合もあるので、できるだけ尿の違和感を見逃さないことが重要。定期的にPSA検査を受けることも大切だ。
田幸和歌子(たこう・わかこ):医療ライター、1973年、長野県生まれ。出版社、広告制作会社を経てフリーに。夕刊フジなどで健康・医療関係の取材・執筆を行うほか、エンタメ系記事の執筆も多数。主な著書に「大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた」(太田出版)など。