一気にその存在が認知されたイエティだが、一時はそんな狂騒に踊らされつつも、しだいに霊長類説否定派となっていった研究家は少なくない。「イエティ─ヒマラヤ最後の謎“雪男”の真実」(山と渓谷社刊)を上梓した、登山家でルポライターの根深誠氏もその一人だ。
イエティなる生物の存在を知った根深氏は、1973年以来、40年にわたってヒマラヤを訪れ、ネパール、シッキム、ブータン、チベットなど十数カ所、延べ100回以上の現地調査を続けてきた。「何か新しい生物が潜んでるんじゃないか」と、当初は意気込んで向かった根深氏だったが、現地に残る伝承や現存物、目撃証言などを収集し続け、導き出したのは「イエティとはチベットヒグマである」という結論だった。
根深氏に話を聞くと、
「とにかくヒマラヤは広いんです。なので我々が“イエティ”と呼んでいるのは総称で、ブータンではメギュ、チベットではティモなど、各地で呼び方はさまざまです。そんな現地の方々に“イエティ”なる生き物を聞いたところ、一貫して指さすのは、チベットヒグマでした」
では、どうして我々はイエティ=霊長類と思い込んでしまったのか。疑問をぶつけると、
「それは一種のマインドコントロールですよ」
と、一笑に付した。
「イエティと聞いて、体中を毛に覆われたゴリラのような生物を思い起こす人が多いと思いますが、これはあくまでもイギリスの登山隊がばらまいたイエティの想像図にすぎません。そもそも、エリック・シプトンのイエティの足跡写真は、ねつ造説が指摘されていますし、恐らくでっちあげでしょう」
確かに、エリック・シプトンの写真発表を受けて、各国でイエティ調査隊が結成され、調査費用を提供するスポンサーも続出したという。
加えて、イエティ=霊長類説を否定する学術的な結果も、実はこれまでに数多く発表されているのだと根深氏は言う。
「海外はもちろん、日本でも“イエティはチベットヒグマだ”という研究結果が発表されているんですよ。でも、誰も信じないんです。虚実の虚のほうが膨らみすぎてしまったんですね」
だからこそ根深氏は、先日のCNNの報道を「興味深い」と語る。
「このチベットヒグマのDNAが、古代のホッキョクグマのDNAと一致するということでしょうか‥‥」