地獄の業火のような福島県民の怒りは尽きない。中筋氏が被災地に入って感じたのは、ここに来て「帰還は無理かもしれない」と避難民が感じだしたことだ。
「南相馬市の居酒屋に入っても、『自分の屋敷は1億や2億で売れるだろうか。いや、5000万がいいところだ』と、値踏みをする会話が飛び交っている。線量が高く帰れない自宅に一時帰宅すると、セイタカアワダチソウが庭に生い茂り、イノシシと交配したイノブタが周囲を走り回る光景を目にする。そんな時、『ああ、帰還は無理かな』って思うそうです」
それかあらぬか、自民党の石破茂幹事長は、東京電力福島第一原発事故で避難した被災者の帰還について11月5日の記者会見で、
「希望も見通しもなく今のままの状況が続くのだけは避けなければならない」
と述べ、いずれ帰還できない地域を明確にする必要があるという認識を示した。中筋氏が言う。
「政府は当初、除染すれば帰還は可能だと言い続けてきた。原発近くには十数代も続く農家が多いので、帰還できないと言われてもおいそれと受け入れられない状況にある。埼玉県草加市に避難している夫婦は原発から3キロの地点に住む17代続く農家でした。避難を余儀なくされ、とりあえず食器を5人分そろえ東電に代金を請求したら東電の国選弁護士から要求を突き返されたというんです。『ウチは自宅で結婚式をあげるほど、何かあれば人を呼ぶ家柄だ』と説明したが、ダメだった。ご主人は『どんなことがあっても家は売らない』と、態度を硬化させています。政府は土地の買い上げを念頭に置いていることは間違いありませんが、相当揉めるでしょうね」
一方、岩手県や宮城県では、M9の巨大地震による津波や地震動のトラウマに今なお苦しんでいる住民が多い。岩手県に住む主婦が言う。
「ウチは津波で亡くなった家族はいないが、小学6年になる子供が毎日のように地震の夢を見るんです。眠りが浅く、体が揺れて地震ではないかと飛び起きるんですが、実際には揺れていない。神経科で安定剤を処方され服用していますが、あまり効果はありません」
トラウマに苦しむのは、女性や子供が多いという。