まさかのキズナ出走回避で急きょ、まだ重賞勝ちのないラブイズブーシェに騎乗が決まったのは武豊である。武といえば、ここ数年の不振と、その一因である競馬界の最大勢力「社台グループ」による冷遇が指摘され、その実態を詳報してきた。
武は10年3月の毎日杯(GIII)で落馬し、左鎖骨と腰椎骨折、右前腕裂創という大ケガに見舞われ、4カ月後に復帰したが、肩の可動域がなかなか元に戻らず、激しい腰痛にも悩まされた。ところが、そんな体調ゆえか、凱旋門賞(仏GI・10年10月)、阪神ジュベナイルフィリーズ(GI・10年12月)では、いずれも社台ファーム生産馬で「騎乗ミス」。同ファームの吉田照哉代表(66)の逆鱗に触れ、「もう武は乗せられない」と見切りをつけられてしまったのである。
今や「社台の運動会」と揶揄されるほどに、近年の競馬界では社台グループの生産馬が大量に台頭し、目覚ましい活躍を見せている。有力馬、強い馬が回ってこない、勝てない、評価が下がる、ますます有力馬が回ってこない‥‥という悪循環に陥り、武は騎手人生で最悪の不遇時代を過ごすことになった。
「ところが、今年の武はケガの後遺症が消えたのか、明らかに復調し、さすがという騎乗ぶりが目立ちました。キズナでの日本ダービー制覇、マイルチャンピオンシップ(GI・11月17日)ではトーセンラーで、誰もがうなるような追い込みを演じて勝ちましたし。完全復活が近い、と言ってもいいでしょう」(スポーツ紙デスク)
今年の武は91勝(12月13日現在)。09年以来の100勝目前である。
天才復活の1年を象徴するかのように、今年2月12日に北海道の社台スタリオンステーションで行われた種牡馬展示会では、照哉氏と笑顔で写真に収まっている。雪解けの兆しだった。
馬産地関係者が語る。
「サンデーレーシングなど社台グループのクラブには、どの騎手を乗せるのか、という会員からの問い合わせが来るのですが、『武を乗せろ』という要望はかなりあります。もちろん、その意見をいちいち聞いているわけにもいきませんが、もし武のスケジュールが空いているのなら、時には騎乗依頼をすることで会員のガス抜きにもなる。お金を出してもらっている会員をないがしろにはできませんから」
いわば「世論」に押される形で武を起用するようになったのだ。