73年度のNHK朝ドラ「北の家族」は、最高視聴率51.8%の大ヒット作となった。主演に抜擢された高橋洋子(68)は、作家としても高く評価された。
名門の「文学座」で72年に研究生となり、松田優作や阿川泰子と同じ12期生だった。
「優作さんと当時は親しかったわけではないけど、76年に『ひとごろし』(松竹)で共演してから意気投合。私は車で京都の撮影所まで行くので、そこに優作さんがうれしそうに乗り込んできたの。車の中では、大御所の丹波哲郎さんに対するグチを聞いてあげたわ」
入団した年、劇団には内緒で、敬愛する斎藤耕一監督の「旅の重さ」(72年、松竹)のオーディションを受けた。劇団はフジテレビの昼ドラに出演させたがっていたが、高橋は自分の意思を貫くことを選んだ。
「ただ、そういう日に限ってスカウトの人が劇団に何人もいらしていて、私は出るに出られず、遅刻してしまったんです。急いで走って行ったので、髪は汗でべっとりと貼りついて」
ケガの功名で、その姿が監督のイメージにぴったりとなり、本命の秋吉久美子を押しのけて主役の座を掴む。タイトルの「旅の重さ」が示すようにロードムービーの形を取っており、ハードではないが、横山リエとのレズっぽい描写やオールヌードの場面もあった。
本作の公開直後、高橋は朝ドラヒロインの座も射止めるが、主演デビューの映画がネックとなる。
「当時の朝ドラヒロインで、その前にヌードを公開した人は誰もいないんですよ。もし、オンエア後に問題視されたら大変なので、文学座から番組のプロデューサーに、そこからNHK局長にお伺いを立てました」
結果は「問題なし」ということで撮影に臨んだ。北海道・函館を舞台に、親と子、兄と妹など家族のあり方を丁寧に描いている。
ヒロインの両親は、劇団民藝出身の下元勉と、俳優座出身の左幸子が演じた。
「今でもお父さんお母さん役の2人が仲悪かったことを強烈に覚えています。それぞれ自分の劇団の芝居の型があって、それが相容れない感じでした」
ただ、高橋自身はどちらにも可愛がられた。名女優の左幸子には「目が落ち着いていないわよ。ハートで芝居を感じなさい」とアドバイスをもらったという。
このドラマが好評で、高橋のもとには「サンダカン八番娼館 望郷」(74年、東宝)や「北陸代理戦争」(77年、東映)など、大作のオファーが続く。
さらに81年には処女作「雨が好き」が中央公論新人賞に輝き、小説家としても多くの著書を生んだ。また女優としては、17年公開の「八重子のハミング」(アークエンタテインメント)で28年ぶりの映画出演を果たした。公開初日の上映は8館だったが、口コミで評判が広がり、103館で公開されるまでに。
「実は10月9日から『キッド哀ラック』(シネマノヴェチェント)という主演の新作が公開されるんです。私はプロデューサーも兼ねていて、上映日ごとに『悪魔の手毬唄』(77年、東宝)や『アフリカの光』(75年、東宝)など、私の出演作との同時上映もあるので、ぜひご覧いただきたいです」
天才女優の覚醒である。