今週は菊花賞。牡馬三冠最後のレースである。先週の牝馬限定の秋華賞とは対照的に、波乱の結果に終わることが多い。経験の少ない長丁場の距離で争われるため、スタミナの有無が問われるレースで、これまで積み重ねてきた実績をうのみにできないからだ。
長距離レースは、世界の主流ではなくなった。それでも、なぜか引きつけられる。血統やレースの駆け引きなど、騎手の腕がモノを言うからおもしろいのだ。
昔は菊花賞の取材で、よく栗東トレセンに足を運んでいた。いろいろなドラマに出くわして思い出深いが、今でも忘れられないのは02年、10番人気のヒシミラクルが勝った時のこと。
ある理由で出走馬が決定する1日前に予想することになったのだが、ヒシミラクルは抽選対象だったため、実のところ、この馬の取材はおろそかにせざるをえなかった。しかし枠順決定後の翌朝に厩舎馬房を訪ねると、ヒシミラクルの威容に圧倒されてしまった。簡単に言うと、放つオーラがハンパなかったのだ。
〈負けない。勝つのはこいつだ〉とピ~ンときて、予想変更を願い出たが却下され、★印のままとどめ置かれた。
しかし、馬券はヒシミラクルから。馬単が導入された最初の菊花賞で、2着に16番人気のファストタテヤマが入ったこともあり、馬単の配当(18万2540円)は俗に言う“ハネ万”。めったにない帯封を手に、グリーン車両を半ば貸し切り状態にしての帰途は、記者仲間との楽しい宴となった。
ということで重ねて言うようだが、菊花賞はおもしろくもあり、好きだ。
しかも今年の顔ぶれを見ると、皐月賞馬(エフフォーリア)もダービー馬(シャフリヤール)もいない。これだけでも波乱ムードが漂っているではないか。
馬単が導入されて以降、これまでの19年間、その馬単での万馬券は7回(馬連は4回)。この間、1番人気馬は8勝と気を吐くが、2番人気馬の勝ち鞍はナシ。2着は1番人気馬がわずか1回で、2番人気馬が4回とあって、1、2番人気馬によるワンツー決着はただの1回。過去のデータが示すように、人気馬同士のまともな決着にはならないとみるべきだ。
1番人気で勝った馬は、ディープインパクト、オルフェーヴル、ゴールドシップ、エピファネイア、コントレイルなど、ほぼ“絶対”と思える馬。彼らに匹敵するような実績ある「強い馬」が、今年はいないように思えるのだが‥‥。
ということで穴党として最も期待を寄せたいのは、ヴィクティファルスだ。
前走のセントライト記念は7番人気で5着に敗れたが、ダービー14着以来3カ月半ぶりの実戦で、勝ち馬とそう差がなかったことを思えば、巻き返しは十分可能。事実、休み明けを使われて大幅良化。1週前の追い切りもリズムに乗って文句なしだった。
「体調面がすぐれなかった春のクラシック時と違い、状態はすこぶるいい。たくましくなり、成長もうかがえる」と、厩舎スタッフは口をそろえている。ならば、やれていい。
共同通信杯2着、スプリングS1着と力は通用してよく、父はハーツクライで母の父がガリレオ(英・愛ダービー)。3000メートルはドンと来いと言っていい。晴雨にかかわらずチャンスは大いにあるとみた。
逆転候補は人気の一角、名手ルメール騎手とコンビを組むオーソクレースだ。骨折明けの前走・セントライト記念で見せ場たっぷりに3着。春のクラシックを棒に振ったが「その悔しさをここで」と久保田調教師は意欲満々だ。
女傑マリアライト(GI2勝)の初仔でもあり、勝ち負けになっていい。