それは秋季キャンプ2日目の11月9日。選手たちが投球練習を始める直前、ブルペンに登場した新庄監督は、捕手の守備位置を通常より1メートル前にするよう指示した。その後、報道陣に、
「あの距離だと150キロちょっと出ていると思う。そのイメージでリズムよく8割くらい(の力)で投げて、(捕手が)下がってもそのまま投げてくれれば」
とコメントしている。角氏が、1メートル短縮ピッチングの狙いを解説する。
「コントロールの良化でしょう。単純に1メートル短くするだけでも、投手にとってはより狙い通りのコースに投げやすくなる。それで投手に自信をつけさせようとしているのだと思います」
いわゆる「成功体験の植え付け」というわけだ。21年シーズンの日本ハムの与四球数はリーグで3番目に多い446。優勝したオリックスはリーグ2位の403だった。投手陣には制球力が目下の課題とみたのだろう。
守備、投球と来て、攻撃面にもメスを入れている。21年シーズンはチーム打撃成績で、打率、安打数、打点、本塁打数、出塁率、長打率でリーグ最低の「貧打六冠王」となった。それに加えて中田翔(32)や大田泰示(31)といった大砲、リードオフマンの西川遥輝(29)がチームを去ることで攻撃力のさらなるダウンが懸念されている。
メジャー通算56本塁打のヌニエス(27)を獲得し、中軸の期待をかける一方で、現有戦力に求めたのは、緻密な「スモールベースボール」だった。
「ベースランニングの練習を2チームのリレー戦に変更し、勝利チーム全員に1台約8000円のマッサージ器を監督賞として贈呈しました。『ゲーム形式にするとチームワーク(の向上)にもなる。(賞品は)これからも考えます』と話していましたが、機動力の向上を図っているのは間違いありません。キャンプでは監督自ら、猛スピードで三塁ベースを駆け抜ける走塁技術を披露するシーンも見られました。そんなことができる監督は他にいませんよ。有名ブランドのどでかいサングラスと金ピカのスニーカーで、というのが新庄監督らしいですが(笑)」(日本ハム番記者)
さらにバント練習にも注文を付けた。通常、130キロ台で設定されているバント用ピッチングマシンの球速を最大の150キロに上げたのだ。角氏も同意して、
「これもいいと思います。ひと昔前ならいざ知らず、今どきは150キロ前後の球を投げるピッチャーはゴロゴロいる。130キロ台なんて、まさに『練習のための練習』にしかなりませんよ」
新庄監督は就任時にこんなコメントを残していた。
「ヒットを打たなくても点を取れるとか、作戦面の面白さ、こんなやり方があるんだというのを発信する」
極端な貧打にあえぐチーム状況を現実的に分析して、その中で勝率を高める方法を模索しているのだ。