杉本容疑者の犯行は、まさに場当たり的であった。それなのに、逃走を成功させたのは、やはり“悪運”が味方したためだ。
社会部記者が言う。
「逃走した杉本は、まず川崎支部の近くに住む後輩の家を目指して走っていました。すると、川崎支部の近くで男女3人が立ち話をしていたのですが、その中の一人が偶然にも、その後輩だったのです。後輩は事態を把握していませんでしたが、『とにかくスクーターに乗せてくれ! 急いでいるから!』と杉本が強く迫り、後輩を後ろに乗せると、自分で運転して川崎市多摩区に向かいました」
スクーターを飛ばした先は、杉本容疑者の実家から近い中学校の同級生宅。ふだんから遊び仲間で自分の服を置いてあり、黒い上下のジャージに着替えた。
「杉本は友人から携帯を借りると、妻に連絡を取って会っていた。6日に警察に捕まった時から、『自分は強盗はしたけど、暴行はやっていない』と何度も言っているのに、警察が信用してくれないことに不満を持っていたようで、妻に身の潔白を主張したかったようです」(前出・社会部記者)
だが、杉本容疑者の言い分は、的外れなのだ。
日大名誉教授(刑法)の板倉宏氏はこう言う。
「本件の罪は2人以上の者が現場において共同して暴行の罪を犯すもの。一緒の現場にいたのであれば、挿入するかしないかは関係ありません。杉本容疑者は挿入をしていないかもしれませんが、被害者を車内に監禁して抵抗や逃亡を抑圧するなどとしたため、警察は共同正犯として本罪を適用したのでしょう」
まさに、杉本容疑者の法の無知がなしえた逃走劇だったのである。
妻と別れた杉本容疑者は、別の同級生に連絡をして軽ワゴン車に乗って、横須賀へと逃走。一夜を過ごしたあと、再び携帯を借りた同級生と車両を提供した同級生を呼び出し、取り押さえられた泉区と隣接する瀬谷区方面に向かった。その際、同級生2人は出頭するように説得したが、杉本容疑者はまったく耳を貸さなかった。
「警察は押収していた杉本の携帯電話から交友関係を割り出し、友人20人から聴取しています。友人の携帯電話を使って車で移動していることが判明し、9日早朝から携帯電話が発する微弱電波をもとに位置情報を割り出し、泉区付近にいることがわかり、逮捕につながったのです」(前出・社会部記者)
そして、逮捕の鍵となったのも、この“交友関係”によるものだった。
あるジャーナリストはこう話す。
「警察は友人らに聴取と言っていますが、実際には裏工作をしています。友人らには、『杉本に金を渡すと、犯人隠避でお前が逮捕されるぞ』などと、軽く脅かしたのです。実際に、杉本の所持金はゼロでした。しかも、携帯電話を借りていることも、あっさり警察に話されたのですから、効果があったということです」
杉本容疑者は警察からかくまってくれるはずだった友人たちに、裏切られていたのだ。仲間さえ失った杉本容疑者には、逃亡した2日間が重くのしかかる。
「杉本容疑者は集団暴行と強盗の容疑など、併合罪という扱いになります。初犯でも凶悪ぶりは否定できず、有罪になれば30年以下の懲役が科されます。逃走せずに罪を認めていれば、13年ぐらいで済んだかもしれません。勾留手続きを終える前に逃げ出したため、刑法の逃走罪は適用されませんが、周辺住民を不安にさせたことで裁判官の印象はよくないでしょう。逃走した分も加算されて、懲役18年ぐらいになるのでは‥‥」(前出・板倉氏)
それで済めばまだいいほうなのかもしれない。
「杉本は『被害者に謝りたかった。金は返すから逮捕は勘弁してほしかった』と供述していますが、逃走した経路に被害者が住む地区を通った形跡はなく、支離滅裂な主張だと相手にされていません。所轄署の事件だったのに、逃走したために本庁の捜査一課が捜査を担当しています。メンツを潰された県警の怒りは相当なもので、一日でも長く懲役に行かせてやるとばかりに、余罪がないか徹底的に取り調べが進んでいます」(前出・社会部記者)
もはや杉本容疑者は塀の中で、長い時間をかけて謝り続けるしかないのだ。