それにしても渡辺容疑者が、なぜ日本から遠く離れたフィリピンの地で「遠隔操作」で連続強盗団の指示役となったのか。捜査関係者が解説する。
「渡辺容疑者は北海道の出身。かつては札幌で不動産の仕事に就き、夜の街にも精通していた。その情報網でターゲットを物色し、12年には札幌市内のマンションで現金1000万円が入った金庫を盗んだ罪で逮捕されています」
その後、しばらく消息はわかっていなかったが、再び渡辺容疑者の存在が知られるようになったのは、東南アジアのアウトロー社会だった。捜査関係者が続ける。
「19年に摘発された『オレオレ(特殊)詐欺』のグループの中心的なメンバーの一人と目されていた人物です。17年頃からタイなどでも特殊詐欺をしていたようだが、摘発を逃れて19年になってフィリピンに入国。オレオレ詐欺を繰り返していたものの特殊詐欺グループが壊滅状態になり、緊縛強盗にシフトしたと見られています。実際、この特殊詐欺事件で『ルフィ』という名称を使いだしており、今回の連続強盗との関連が捜査線上に浮上したのです」
そんな渡辺容疑者がアジトにしていたのが、フィリピンの首都マニラ郊外にあるビクタン収容所だ。日本とは様相がガラリと異なり、檻の中はまるで治外法権がバッコしているという。
「この場所は犯罪者たちの“聖域”と化している。職員に賄賂さえ渡せば、外部に電話は掛けられるし食事も自由に取り寄せられるほど。日本人の収容者の中には、日本に帰国すると逮捕・勾留の可能性があるので送還逃れのため、わざわざ女性などにカネを握らせて暴行などの微罪をでっち上げ、ここから出ようとしない者もいる。とにかくカネしだいで、カネのある人間には手厚い場所なんです。今回の強盗団のサポート役とみられる今村容疑者とは、この収容所で知り合い、行動を共にしていたようです」(捜査関係者)
昨年からは今回の強盗グループともう一つのグループが覇を競うかのように犯行を続けているという。
アウトロー事情に詳しいライターの根本直樹氏が解説する。
「特殊詐欺は今やジリ貧。警察の啓蒙活動と良質な名簿の枯渇で稼げなくなりました。そんな彼らが手っ取り早く稼ぐ方法として目を付けたのが強盗なんです。特殊詐欺ではお役御免となった名簿を再利用できますからね。今回の犯行グループも、過去に特殊詐欺に加担していたと考えるのが自然でしょう」
とはいえ、真っ先に逮捕されるのは実行部隊で、しかも特殊詐欺の窃盗罪と、強盗および強盗致傷罪とでは刑期が大きく異なる。広域組織関係者に聞くと、
「報酬はせいぜいアガリの10~20%程度。しかもメンバーで山分け。10軒中3軒ぐらいの成功率だけに大した得にはならんわな。それでも、人を集められる『リクルーター』は口がうまい。『初犯なら執行猶予が付く』や『保険に入っているから盗られた人も損をしない』といったウソをよどみなく話すもんだから、まんまと騙されてしまう。ツイッターのアカウントに『即金でカネ貸せます』と貸金業者を装ってDMを送るんだ。話に食いついてきたら、免許証のコピーや家族構成なんかのプロフィールと引き換えにカネを高い利息で貸し出す。その返済が滞るタイミングで強盗を打診するわけよ。『自宅にいやがらせするぞ』なんて脅せば断られやしない」(広域組織関係者)
やるかやられるか──。一度でも関わったら、負の連鎖は逮捕されるまで続くのだ。