ブラッドスポーツとも呼ばれる競馬だけに、馬主もファンも常に種牡馬に悩まされるもの。特にディープインパクトとの交配は、牝馬を所有する生産者やブリーダーズオーナーから大人気だ。だが、大種牡馬サンデーサイレンスの1発2500万円に比べれば半額とはいえ、リスクは高い。現在、繁殖牝馬を7頭持つコパ氏も、ディープの子を牡、牝1頭ずつ所有している。
「08年春に2頭の牝馬にディープをつけたら2頭とも受胎が確認されてね。9月半ばに突然、2400万円の請求書が届いた。支払期限を見ると月末。半月しかないんだよね。しかもその後は、競走馬としてはダメだったな。結局、繁殖として残しているんだけど、赤字の上塗りかな。でも、楽しむしかないよね(笑)」
ディープの子とはいえ、昨年でも中央で勝利した頭数は35頭という狭き門だ。スポーツ紙デスクが話す。
「12年に馬主になった俳優の伊藤英明(38)のソードブレイカーは、父がディープで3000万円弱したそうですが、〈0136〉で引退。ツヴァイハンダーも中央では美酒を味わえぬまま地方の名古屋で初勝利。昨年のセレクトセールには福永騎手を引き連れて、馬探しをしていましたね」
伊藤に限らず、中央1勝の壁が高く険しく映る。前出のデスクが続ける。
「1月3日に亡くなられたやしきたかじんさん(享年64)は、凝り性で血統に詳しかった。GI馬レッドディザイアの母グレイトサンライズは、たかじんさんの所有馬だったんです。現役時代は7戦1勝も、新馬戦を勝ち上がった能力は本物で、売却後に血統研究の成果が出るなんて皮肉ですが、それも競馬の世界ではよくあるエピソードですね」
逆に、馬に救われたのが萩本欽一(72)だ。競馬好きの放送作家が言う。
「名馬スペシャルウィークやグラスワンダーを相手に華麗な逃亡劇を演じたアンブラスモア(仏語で『私にキスして』)は、欽ちゃんが映画製作で失敗して数億円という負債を抱え、苦境に立たされた時に走りまくったんです。『もう何度でもキスしちゃうよ』って感謝してましたね」
まさに悲喜こもごも。それだけに馬主は、馬の購入や預託費に神経を注ぐ。
「年間の予算からそれぞれの上限を決めてます。オーバーしそうになれば売却や引退を考え、在厩頭数をしぼり込み、次回の買い入れ計画も練り直す。馬券にも通じることですが、『今日のところはここで手じまい』っていう撤退のしかたが大切。そこをしっかりとやれてこれたからこそ、馬主として12年目を迎えられたんだと思いますね」(コパ氏)
一昨年、ヴィルシーナやマジンプロスパーの活躍で、馬主ランキング48位に躍進した「ハマの大魔神」こと佐々木主浩(45)も、綿密な戦略を立てているという。
競馬ライターが語る。
「多くの所有馬を持っているイメージがありますが、『1世代2頭まで』と決めて、少数精鋭のラインナップを貫いています。09年にセレクトセールで買ったスペルヴィア(10戦2勝)が現役馬の中で最も高額(8190万円)だと思いますが、購入時には外車を売ることで夫人の承諾をもらったそうです。12年度、わずか6頭の出走頭数で3億円を稼いでも、そのスタンスは変えないようです」