鉄道にまつわるトラブルは、これだけにとどまらない。電車通勤のサラリーマンなら日常的に“人身事故”でのダイヤの混乱を経験しているだろう。ただでさえ、身内の突然の死に取り乱す遺族が、その後も大きな負担を強いられるケースもあるのだ。地元紙記者が語る。
「昨年8月、名古屋地裁は認知症男性(91)が列車にはねられ死亡した事故で、親族に対して鉄道会社への代替輸送などにかかった費用約720万円の支払いを命じました。家族は介護に真摯に取り組んでいたが、少し目を離した隙に男性が家を飛び出して事故は起きてしまいました」
認知症の男性が徘徊したあげく、踏切内に入ってしまった痛ましい事故だけに、人情論で見れば厳しい司法判断のような気もするが、谷原弁護士は「妥当な判決だった」と言う。
「徘徊について家族が当然ありうると予測できて、防げたかが問題。認知症の場合は徘徊する癖があります。経済的な状況で防止策を取れる家族でありながら、施設に入居させるなどの防止措置を取らなかったことで事故を招いたとして、損害賠償命令が下りました」
同じような電車事故でも、走行中の列車に飛び込み自殺をした場合は、責任の所在が変わってくる。
「自殺によって電車を止めて損害が発生した場合、自殺した人は亡くなっているので相続人に債務請求が発生します。飛び込み自殺は予期できないため、監督責任はなく、相続人が支払えない場合は、相続放棄すれば支払い義務はなくなります」(前出・谷原弁護士)
この「監督責任の有無」によって支払い義務が発生する場合と、そうでない場合が出てくるというのだ。損害賠償の基準について、大手鉄道会社の元職員はこう語る。
「会社の規定では、事故が起こったことで費用が発生した場合は、原則として全て請求します。代替輸送の本数が多かったり車両が脱線したら1000万円を超えることもありますが、損害が小規模の時は数万円だったこともあります。ただ請求する一番の理由は、株主対策。会社に非がないのに費用を負担して当事者に損害請求しないと、株主に対して説明がつかず、株主から株主代表訴訟を起こされるリスクを想定しているからです」
だが「爆破予告」や脅迫のような“愉快犯”には、とんでもない賠償金が請求されることは必至だ。
「鉄道会社への爆破予告は、威力業務妨害の犯罪でもありますが、予告内容が悪質で鉄道会社がお客さんの安全管理のために運休して、通常営業ができなければ損害が発生します。どの地域で爆破予告をするかで損害額は変わり、新宿駅などの利用者が多い駅で一日中運休すれば、億を超えることも予測されます」(前出・谷原弁護士)
賠償責任は当事者本人だが、未成年がいたずらでネットなどに書き込んだ時は親にとばっちりがくる可能性もある。
「未成年者でも物事の判断ができる能力があれば本人の責任ですが、その能力がなければ親の監督責任が問われて支払い義務が問われます」(前出・谷原弁護士)
軽い気持ちが莫大な賠償金につながることもある。まずは、子供のしつけが肝心のようだ。