ギャンブラーとしても慧眼を見せつけた武の馬券術。その強さの秘密は何なのか。競馬ライターの平松さとし氏が解説する。
「武騎手にインタビューすると、レースで乗った馬の特徴だけではなく、どのように騎乗依頼されて、レースの直前にはどんな出来事があったかなど、実に事細かに記憶していることに驚かされます。しかも、自分が騎乗した馬だけでなく、他の馬の癖にも気づくのは、名伯楽・藤沢和雄調教師とも共通しています。とにかくふだんからレースをよく見ており、その記憶の積み重ねの結果なのだと思います」
ギャンブルの格言に「競馬は記憶のゲーム」というのがあるが、騎手としてだけでなく、勝負の展開を予想するうえで、過去のデータがモノを言うのは言うまでもない。そうしたデータの裏付けをもとに、武は予想においても独特の嗅覚を発揮するのだ。
「騎手はレース名を聞けばコース、距離、過去のレース展開が思い浮かぶといいます。武豊の場合には過去のデータは全て頭の中にインプットされており、みずからの記憶だけでシミュレーションを行うことができると言われています」(トラックマン)
では、武の予想に戻ろう。続く3レース目の予想こそ惜しくも外したが、ここからが勝負師の真骨頂。
「ダンツビューティの子供、5走で3回出遅れてる。出遅れてまくって勝つというのが今日のパターンかな」
とレース展開を予想すると、再び1着固定の3連単で馬券を購入。しかも2着、3着を3頭までしぼり込み、勝負馬券は実に6通り×5000円の3万円ナリ。さらに軸馬が2着以下に沈んだ場合の保険として4頭ボックスの3連単(24通り)、さらには気になる穴馬を1頭入れ替えた別の4頭ボックスを購入し万全の態勢だ。
「けっこう買うな。たぶん当たるから大丈夫だけど」
と余裕の表情の武。するとレースは予想どおり向こう正面からまくる展開に。そこから指名した馬が前4頭までを独占してゴールという完全勝利だった。
「よし、そのまま、4連単獲った!」
結果は堅めながらも、なんと馬券は3枚とも大当たりとなるトリプル的中。もう勝負師の勢いは止められない。そして、番組はいよいよ最終レースへ。
「おっ、モータウンサウンドはデビュー戦で乗った。京都の芝2000メートルかな。でも軸にできる馬がいない。9番かな~」
結局は1番人気の1着に固定し、相手4頭の3連単(12通り)。そして相手はそのままで軸を2着に固定した3連単の2枚の馬券をオーダー。しかし、時間をかけマークカードに記入したのが裏目となり、窓口締め切りで購入できず。
「それでも予想はみごと的中。しかも3着馬が同着だったこともあり、3連単が2本も当たっていた」(嘉門氏)
もはや神業。結局この日は5戦で3度の3連単的中。払い戻し額は57万超、総収支ではプラス34万円、なんと約250%の回収率を記録したのだった。
「武騎手はふだんから『馬を見てもよくわからない』と言ってますが、何千頭も、騎乗した経験から気づく特徴などはあるのでしょう。それでも、テレビ番組で実際に勝つのはまた別次元の話ですよ。やはり“持っている”としか言いようがない」(前出・平松氏)
乗ってよし、買ってなおよし──。唯一無二の天才ジョッキーは馬券術も超一流だったのである。