因縁めいた経緯で都知事選に参入した小泉氏だが、老体はついてこなかったようだ。演説が終盤にさしかかると、体力が追いつかず、とにかくセリフをかみまくるのだ。
「これから年を取ってもできることがある、やられることぎゃある(やるべきことがある)。それに向かってほそおかわさん(細川さん)と」
「生きている間にせめてそのきっきゃけ(きっかけ)を作れないかと思ってやっています」
「細川さんと、それから自分と原発のなきゃ(なき)社会(聞き取り不明)」
入れ歯のズレた老人のごとき言いよどみは、約30分間で実に20回を超えた。ヨボヨボの応援演説にわずかながら力ない拍手喝采を送るのは、小泉氏に同情した同年代の高齢者が多い。政治ジャーナリストの鈴木哲夫氏が、細川・小泉陣営の弱点を語る。
「直接、世論に訴えかけるのが、小泉さんの手法です。しかし、告示後になると、選挙報道の規定で特定の候補者にスポットを当てて新聞・テレビなどが扱うことはできず、全ての候補者が平等にメディアに流れます。つまり、小泉さん最大の武器が今回は有効に使えないのです」
不利と知りながらも、小泉氏はこう語っている。
「総理やめたんだから、のんびりしていようかと思ったんだけどね、やっぱりね、やることがあるんじゃないかと考え始めた」
さらに、こう結んでいくのだった。
「最初はちょっとおっくぅだったんですよ。もう総理やめて室内の講演だったらこんな声をからせなくてもいい。マイクももっといいのあるから、楽だと思ったの。外だとこういうわけにはいかん。つい力が入る。(略)皆さんの姿を見るとね、年を忘れちゃいましたよ」
都知事選は小泉氏にとって永田町復帰へのリハビリだと明かすのは、永田町関係者だ。
「現在、政界は安倍さん一色の状況です。そこで小泉さんは、安倍さんと対立するリベラル型の政党を作ろうとしているのです。『反原発』はその象徴で、まず都知事選で旗を揚げました。『やることがある』というのは政界再編なのです」
疲れからか、今回の選挙戦で、小泉氏が街頭で握手をすることはなかった。菅義偉官房長官は、細川・小泉連合不利の報を聞き、
「今回負けたら小泉さんは終わりだな。誰も相手にしなくなる」
と、“政界再稼働なし”と判断したという。
再生エネルギーを訴える小泉氏の車は、ガソリンで動く、燃費約8キロ/リットルの低燃費高級車レクサス。後部座席に、グッタリした様子で身を横たえて、小泉氏は現場を去ったのだった。