近年、世界規模でサラブレッド事業を展開するカタール王家。その担い手の若き殿下の一人が昨年11月にJRAの馬主資格を取得していた。中東でも絶大な人気を誇る武豊騎手(44)とコンビを結成し、早ければこの夏の新馬戦からターフをにぎわせるかもしれない。
日本の競馬ファンがため息をついた昨年の凱旋門賞。オルフェーヴルを破った3歳牝馬の怪物馬トレヴのオーナーこそ、カタールのタミム首長の弟・ジョアン殿下(29)だった。海外競馬に詳しい競馬ライターの秋山響氏が解説する。
「今回、馬主資格を取得したのは、ジョアン殿下のいとこのファハド殿下です。10年にパール・ブラッドストックという組織を作り、競馬界に参入するや、翌年9月、英チーヴァリーパークSでGI初制覇。11月にドゥーナデン(13年JC5着)で豪州最高峰のGIメルボルンCを制しました」
このドゥーナデンの活躍が王家の競馬熱をかきたてたという。ファハド殿下の兄弟も加わり、新組織「カタールレーシング」が誕生。ジョアン殿下も「アルシャカブレーシング」を組織し、フランスに生産拠点の牧場もオープンさせている。スポーツ紙デスクが話す。
「仏オークス後、トレヴを約10億円で獲得したように、現役馬の金銭トレードから始まった競馬組織とはいえ、アイルランドのクールモアやドバイのゴドルフィンという世界屈指の生産グループと肩を並べる存在に成長しそうです。カタールは石油と天然ガスの資源国だけに、彼らには潤沢な資金があり、昨年の時点でファハド殿下側は現役馬200頭以上、繁殖牝馬と仔馬も160頭近く所有している。昨年7月の(社台の)セレクトセールでも、1歳馬2頭、当歳馬3頭の計5頭(うち牡3頭)を購入。中でも9000万円で落札したピンクパピヨンの2012(牡)は、父キンカメ、母父サンデー。今年のダービーの有力馬トゥザワールドと同じ配合です。ダービーなどのクラシックを狙っているようにも映りますね」
日本以外で出走経験がある外国産馬はJRAの調教師に預託できない規定があり、海外で活躍する馬の国内挑戦は限定される。専属のJ・スペンサー騎手を日本で乗せるのも簡単ではなく、武の名前が取りざたされるゆえんだ。そのへんの事情を専門誌編集者が解説する。
「短期免許で来日中の外国人を乗せるという選択肢もあるが、どうも武豊を狙っているフシがある。中東での武豊人気は絶大で、ドバイワールドカップデーの直前になると、運営関係者や地元のタクシー運転手から『武豊は来るのか?』と聞かれる。美しい騎乗フォーム、柔らかな手綱さばきは気品に満ちていると、大絶賛されています」
海外GI7勝という武の重用もあるという。
「カタール王家が求めているのは、能力の高い馬だけではない。自前の生産を目指す以上、卓越した技術を持った調教師や牧場スタッフ、騎手などのスカウトにも熱心です。日本競馬を知り尽くした武豊を日本の主戦兼アドバイザーに抜擢してもおかしくない。石油王が作り出す怪物馬に専属騎乗できれば、まさにタケノミクス。国内では敵ナシでしょう」(前出・編集者)
武豊のダービー記録は、まだまだ伸びそうだ。