1990年1月16日、ハワイのホノルル空港で、肌着の中に薬物を隠し持っていたとの容疑で現行犯逮捕された勝新太郎。急遽、ハワイで開かれた記者会見では、
「なぜ肌着の中に入っていたか、わからない。今後は同様の事件を起こさないよう、もう肌着をはかないようにする」
1年半後、帰国の際には、同じ飛行機に同乗するマスコミを集めて、こう言い放った。
「総理大臣の代わりはいるが、勝新太郎の代わりはいない」
さらに帰国後の取調べでは「(薬物を)誰かにもらったんだろ」という刑事に対し、「そういうことにしてもいいけど、そうなると、トップシーンはいいけど、ラストはおかしくなるよ」と答え、取調官を苦笑いさせたという伝説も残っている。
そんな勝の元側近マネージャーだったアンディ松本氏に、話を聞いたことがある。同氏は勝が亡くなり、20年の歳月が経過する中、哀惜を込めたエッセイ「勝新秘録 わが師、わがオヤジ勝新太郎」(イースト・プレス刊)を上梓。
「もう時効だから言うけど、オヤジは(薬物を)時々やっていたからね。事件のことを聞いた時、起こるべくして起こったなと。ただ、『天然由来のものはいいけど、ケミカルはダメだよ、ケミカルは』が口癖だったから…」
実は、アンディ氏自身もマネージャー時代、勝から「チョコレート」(薬物から抽出した液体を固めたもの)を預かったことがあるというが、
「それを実家のベッドの下に隠したんだけどね、親に見つかって燃やされちゃって。しばらくして、オヤジから『アンディ、あれ持ってきて』と。『はい? いえ…あの』とトボけたんだけど、隠せないし、全部正直に話したんだ。すると『あぁ、そう。悪かったね』。それで終わり。普通だったら、テメエふざけんなバカヤロー、となるじゃない。それが一切なかった。預けたのは自分。なくなったのも自分の責任。オヤジはそういう人だったね」
そんな男っぷりのいい勝は、とにかく女性にモテたという。
「オヤジはよく江波杏子や倍賞美津子、藤村志保といった女優陣を引き連れて飲み歩いていたけど、大勢で飲む時はアイスバスケットの中にレミーマルタンを1本注いで、そこに水を少し入れて飲む。ある時、帝劇がハネた後、太地喜和子がスッピンで勝のいる店に来てね。チークタイムになるとオヤジと2人で踊り出したんだけど、ダンスというより、もう完全に男女が交わる感じの行為そのもの。そのくらい濃厚なダンスだったね」
そしてアンディ氏は、こう述懐したのだった。
「オヤジに出会って、本当に男が男に惚れることがあると知った。自分の人生でいちばんステキなプレゼントをくれたオヤジには、今も感謝の気持ちしかないよ」
(山川敦司)
1962年生まれ。テレビ制作会社を経て「女性自身」記者に。その後「週刊女性」「女性セブン」記者を経てフリーランスに。芸能、事件、皇室等、これまで8000以上の記者会見を取材した。「東方神起の涙」「ユノの流儀」(共にイースト・プレス)「幸せのきずな」(リーブル出版)ほか、著書多数。