「いかなる台湾独立の企ても断固粉砕する」「中国軍は戦うことを惜しまない」
これは、中国の魏鳳和国務委員兼国防相の発言である。
魏氏が強硬発言を放ったのは6月10日、アジア安全保障会議に出席のため訪れたシンガポールで、ロイド・オースティン米国防長官と会談したときのこと。オースティン氏が台湾問題の情勢悪化の回避をすべく融和を呼び掛けたのに対し、中国側が見せた露骨な姿勢は、ウクライナに対するロシアの対応と似たものを感じさせた。
一方の台湾は、新型コロナウイルス対策の「優等生」と言われていたものの、目下、オミクロン株の感染拡大が止まらず。一日当たりの新規感染者数は4月28日に初めて1万人を突破、6月12日も5万人超となっている。
サイエンスライターが言う。
「22年3月、中国では上海を中心にオミクロン株が広がりました。一方、台湾も拡大し始めたのは3月下旬です。台湾は島国であり、厳重な検疫でウイルスの侵入をそれまで防いできたのですが、もっぱら中国からもたらされた可能性が高いとの見方が大半です」
そんな中、ただならぬ事態を指摘する声もあるという。
「中国軍機がたびたび台湾の防空識別圏に侵入しているのが、非常に気にかかります。もし空からオミクロン株をバラ撒けば、ウイルスはいとも簡単に台湾社会に深刻なダメージを与えることになりますからね。中国は上海でロックダウンを続けたことが奏功し、ひとまず落ち着いた。ところがそれとは対照的に、隔離措置の緩和でウイズコロナに舵を切った蔡英文政権が窮地に立たされている。台湾には中国と距離を置こうとする蔡政権に対し、『両岸(中台)交流を積極的に促進する』とする勢力がある。コロナ対策の失敗で蔡政権が退陣すれば、武力行使なしで祖国統一のチャンスが巡ってくるわけです」(軍事ジャーナリスト)
魏氏は安全保障会議の演説でも、台湾を独立させる動きに対し「我々は戦争をいとわない。代価を惜しまず最後まで戦う」と釘を刺し、台湾が自国の領土であることを主張している。習近平政権が何をしでかすか分からない状況にあることは確かだろう。
(蓮見茂)