安倍晋三元総理はタカ派保守の象徴的存在だった。例えば、韓国側が日本側に賠償を要求してきた徴用工問題や従軍慰安婦問題などに対しても、タカ派保守の急先鋒として、韓国政府に敢然とノーを突き付けた強硬派だった。
ところが、である。安倍路線とは一線を画してきた自民党の有力派閥幹部は、
「7月の銃撃事件以降、政界でも言論界でも安倍さんをあからさまに批判することは一種のタブーとされてきた。とはいえ、タカ派のシンボルだったはずの安倍さんが、旧統一教会(世界平和統一家庭連合)の広告塔として、日本人を食い物にする教団活動に加担してきた罪は万死に値する、と言っても過言ではない」
そう指摘した上で、次のように断罪した。
「旧統一教会側は『信者による自主的な献金』などと釈明しているが、要は教団の設立者である故・文鮮明氏の厳命を具体化する形で、マインドコントロールによって洗脳した日本人信者から多額のカネを巻き上げてきたということだ。集まった巨額のカネは日本から本国(韓国)にせっせと送金され、その一部は文鮮明氏が生まれた北朝鮮にも流れたと言われている。安倍さんはこの集金活動と送金活動にお墨付きを与え、多くの日本人信者の家庭が破壊されてきたのだから、結果論として済ませられる話ではない」
安倍氏を銃撃、殺害した山上徹也容疑者のケースもまた然り。山上容疑者の家庭は旧統一教会の信者である母親が億単位の献金をしたことで、崩壊に追い込まれた。自民党関係者も厳しい口調で言う。
「自衛官時代、山上容疑者は自死まで試みている。目的は保険金であり、家族を救うためだったと報じられている。山上容疑者の今回の凶行については『思い込み』『逆恨み』『論理が飛躍している』などと言われているが、山上容疑者が『韓鶴子総裁の殺害が無理なら、広告塔である安倍元総理を』と考えたとしても不思議ではない。旧統一教会によって人生をメチャクチャにされたという重い事実を棚上げにして、逆恨みや論理の飛躍のひと言で今回の事件を片付けてしまうことの方が、むしろ間違っていると、私は思う」
いかなる理由があろうとも、山上容疑者の凶行を正当化することはできない。だが、今回の事件に「起こるべくして起きた」との一面があることもまた、事実だろう。