広川氏は退職金の大半を開業につぎ込む。都内に借りたテナントの保証金、ベッド、ソファなど出費は多額だ。この開業費も節税のポイントになる。福島氏が言う。
「開業した初年度は、売り上げがそれほどでもなかった場合、開業費は計上せずに、売り上げが増えた翌年以降に計上することができます。節税という観点からよく考えたほうがいいです。また、経営のセミナーに参加した場合も、交通費も含めた参加料が開業費に当たるので、しっかり記録しておく必要があります」
そして、開業後は日々の経費確認も必須である。
「整体院ではBGMがかかっていますが、そのために購入したCD代も経費となります。たとえ、自分の好きなアーティストの歌であっても大丈夫」(福島氏)
他にも、携帯電話の通話料の一部、待合室に置いたお菓子代など節税につながる経費は多い。賢い自営業者は皆、日々の領収書を保管し、あの手この手で経費として処理しているのが現状なのだ。
しかし、そんな賢人たちにも拭いきれないのが、老後資金の不安だ。公的年金では会社員とは雲泥の差がついてしまう。広川氏は会社員生活が長く厚生年金をもらえるが、自営業者の中には国民年金のみという人もいる。この数年の国民年金平均受給額は月約5万4000円。保険料を払うのもアホらしくなる。
稲毛氏が言う。
「受給開始年齢の引き上げ、受給額の引き下げは避けられない問題ですが、公的年金は死ぬまで保証が出るのですから、自営業者にとっては最後の砦。きちんと支払っておくべきです」
ならば保険料を安く抑えたい。今年4月から国民年金保険料の2年前納が認められた。2月中に申し込み期間が終了し、現時点で申し込みはできないが、2年分を一括で支払うと、約1カ月分の保険料がお得だ。
「まとまった資金がないと2年前納はできませんが、口座振替日の早割なら誰でも可能です。通常、4月分の保険料は5月末に口座振替になるのですが、4月末に振替するだけで、月額50円の保険料が割引されるのです。毎年、保険料が数百円ずつ値上がりしている現状では、インパクトは小さくない割引額です」(稲毛氏)
もちろん、利益がたくさん出ている自営業者なら、国民年金基金や私的年金の401K(確定拠出年金)で年金の上積みも可能だ。どちらも控除対象で節税にもなる。それでも、物足りない自営業者もいる。
「定年がないのが自営業の強みです。できるだけ長く働き、コツコツ貯蓄もして、国民年金の受給開始を遅らせると、その分受給額に利率が上乗せされます。バカにならない金額で、実践されている自営業の方も多いですよ」(稲毛氏)
アベノミクス効果をまったく感じない会社員諸氏は、独立前に賢い自営業者の知人を1人でも増やすべきだ。それだけ、多くのサバイバル術を伝授してもらえるのだから‥‥。