苦境に立たされたロシアに助け船を出そうというのは、やはり国際社会から爪はじきされている北朝鮮だった。元陸上自衛隊中央即応集団司令部幕僚長の二見龍元陸将補が解説する。
「8月5日にロシアの国営テレビで国防専門家のイーゴリ・コロチェンコ氏が『10万人の北朝鮮義勇兵がウクライナに来て紛争に参加する準備ができている』と発言していました。コメントの正確性については検証が必要ですが、仮に北朝鮮のエリート部隊である特殊部隊10万人が参戦すれば、人手不足にあえぐロシアは大いに助かるはずです」
とはいえ、戦いの最前線に配置されるわけではないようで‥‥、
「復興活動と警備要員に充てられる見込みです。ロシア軍はチェチェンやシリアから義勇兵を動員していますが、もし、北朝鮮の正規軍を戦地に配置した場合、NATOも対策を取り、戦争のフェイズが1段階上がり、ロシア&北朝鮮vsウクライナ&NATOの構図へと発展する可能性があります。そのため、北朝鮮からの援軍は後方支援に充てられることが考えられます」(二見氏)
さらなる後方支援の一環か。9月5日の米紙「ニューヨーク・タイムズ」では、ロシアが北朝鮮から砲弾とロケット弾を数百万発購入しているとも報じられている。
「戦争が長期化して砲弾が不足するのも不思議ではありません。通常の戦闘部隊は、1個師団(約1万人)で1日あたり2000トンの物資が必要になります。そのうち9割の1800トンを弾薬が占めている。仮に陸軍の半分にあたる14万人分を用意するならば、単純計算で1日で2万5200トン、1カ月で約75万トンの砲弾が必要になります」(二見氏)
ロシアにとって悩ましいことに、砲弾の数は実際の消費量以上に減少しているという。二見氏が続ける。
「備蓄が最大2000万発あると言われていましたが、その量は想定より少ないかもしれません。というのも、各地のロシア軍の戦闘部隊の弾薬置場、部隊に配分するために設置する弾薬集積所、さらに後方に位置して大量の弾薬を保管する弾薬庫をウクライナ軍の『HIMARS』などから発射されるロケット弾により、連日破壊されているからです。北朝鮮で使用している火砲は旧ソ連製がベースになっているため、砲弾であればロシア軍でも使用可能。ちなみに、152ミリ砲弾と122ミリロケット弾を購入するという米国メディアの報道もあります」
一方、22日に北朝鮮は朝鮮中央通信に国防省の装備総局副総局長の「ロシアへ武器や弾薬を輸出したことはなく今後もそうした計画はない」という談話を掲載。きっぱり否定していたのだが、軍事ジャーナリストの黒井文太郎氏は言う。
「現段階で、北朝鮮で製造された砲弾やロケット弾が使用されたという情報はありません。ですが、米国メディアの情報源にあたる米当局が発信する情報の精度は侮れません。7月頃、イランがロシアにドローンを提供するという真偽不明の情報が発信されましたが、のちに使用が確認されている。北朝鮮の砲弾についても限りなくクロに近いグレーであると考えられます」
火のない所に煙は立たないのである。